2020年07月01日号
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artscapeレビュー

テマヒマ展 東北の食と住

2012年10月01日号

会期:2012/04/27~2012/08/26

21_21 DESIGN SIGHT[東京都]

東日本大震災以後、原子力発電に依存した社会の仕組みが根底から見直されている。戦後社会の繁栄がある程度原子力エネルギーに由来していることは事実だとしても、その延長線上に、これからの社会を想像することはもはやできない。では、いったいどこに向かうべきなのか。それを考える手がかりは、もしかしたら戦後社会の成長の陰に隠されているのではないだろうか。
本展は、東北各地の「食と住」に焦点を当てた企画展。グラフィックデザイナーの佐藤卓とプロダクトデザイナーの深澤直人を中心にしたチームが東北各地の暮らしを取材、その映像と事物を会場で展示した。広い会場には、麩、凍り豆腐、駄菓子、きりたんぽ、会津桐下駄、南部鉄器などが整然と陳列され、それはまるで博物館のようだった。
一方映像は、りんご剪定鋏やマタタビ細工、笹巻などを手間暇をかけて制作する工程を美しく、しかも簡潔に映し出していた。それらを見ていると、東北各地におけるものづくりが風土と密接に関わっていることが如実に感じられたが、それは、現在の都市生活がいかに風土と切り離されているかを裏書きしていた。
こうした手仕事は、都市生活を牛耳る便利という名の合理性からは切り捨てられがちである。しかし、本展で紹介されていたように、それが私たちの身体性にもとづきながら風土のなかで確かに育まれていることを思うと、この手仕事を不便の名のもとで十把一絡げに切り捨てることはできない。むしろ、これは便利という名の合理性とは異なる水準にある、別の合理性として捉え返すことが必要なのではないか。もっと言えば、風土と身体に根づいているという点で、それは都市の文化には到底望めない、豊かな文化、豊かなアートなのではないか。
本展がやり遂げようとしていたのは、民俗をアートとして見せることである。だが、展示を見終わって改めて思い知るのは、民俗そのものがアートだったという厳然たる事実である。西洋由来のアートを輸入するより前に、私たちの風土のなかにそれはすでにあったのだ。厳しい環境を豊かに生きていくために、暮らしを美しく彩る技術。今後ますます日本社会が貧しくなっていくことが予想される昨今、これからの私たちにとっては、いわば「裏日本」の思想が目印になるのではないだろうか。

2012/08/24(金)(福住廉)

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