artscapeレビュー

写真に関するレビュー/プレビュー

プレビュー:あなたの肖像 工藤哲巳 回顧展

会期:2013/11/02~2014/01/19

国立国際美術館[大阪府]

1994年以来、約20年ぶりに開催される工藤哲巳の大回顧展。日本初公開を含む代表作約200点が展示されるほか、1962年の「第14回読売アンデパンダン展」に出品された伝説的作品《インポ分布図とその飽和部分に於ける保護ドームの発生》(ウォーカー・アートセンター蔵)が50年ぶりに帰国、さらには多数の記録写真と関連資料、ハプニングの秘蔵映像(初公開)と話題満載の内容だ。規模的にも前回の1.5倍に拡大しており、工藤展の決定版となるだろう。

2013/10/20(日)(小吹隆文)

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Shinonome Photo Festival 2013

会期:2013/09/27~2013/11/09

TOLOT/heuristic SHINONOME[東京都]

オン・デマンド印刷の写真集やカレンダーなどを製作している東京・東雲のTOLOTが運営するスペースで、今年から秋に写真フェスティバルが開催されることになった。元は倉庫だったというかなり広い会場に、ゆったりと写真作品が並ぶ。参加ギャラリーと出品作家は、以下の通りである。
ARATANIURANO(西野達)/Gallery Koyanagi(野口里佳)/G/P + g3/ gallery(篠山紀信)/Mujin-to Production(朝海陽子)/SCAI THE BATHHOUSE(ダレン・アーモンド)/Shugo Arts(カーステン・ヘラー、金氏徹平、中原浩大、ボリス・ミハイロフ)/Taka Ishii Gallery(細江英公、森山大道)/TARO NASU(松江泰治)/The Third Gallery Aya(石内都、山沢栄子)/Tomio Koyama Gallery(ローリー・シモンズ、福居伸宏、古西紀子)/YAMAMOTO GENDAI(エドガー・マーティンズ)/YUKA TSURUNO GALLERY(ティム・バーバー)。
このリストを見てもわかるように、同スペースに常設会場を持つG/P + g3/ galleryとYUKA TSURUNO GALLERYを除いては、各ギャラリーの顔見世興行的な意味合いが大きい。出品作家の幅が広いので、かなりばらついた印象は否めないが、写真をコンテンポラリー・アートの重要な領域と位置づけて展示活動を展開しているギャラリーの数が、いつのまにか、これだけ多くなっていることに驚かされた。将来的にカタログなども刊行できるようになれば、秋の恒例行事として定着していくのではないだろうか。

2013/10/16(水)(飯沢耕太郎)

宮嶋康彦「Siberia 1982」

会期:2013/09/20~2013/11/16

gallery bauhaus[東京都]

1982年11月、31歳の宮嶋康彦はチェホフの『シベリアの旅』を読んだことをきっかけに、「日本人の起源」を求めてモスクワ経由でシベリアに旅立った。指導者のブレジネフの死後まだ間もない時期、ソビエト社会主義政権にはすでに荒廃の気配が色濃く漂い、崩壊への坂道を転がり落ちつつあった。若い写真家は、4×5判の大判カメラを抱え、KGB(国家保安委員会)のメンバーらしい男の尾行に遭ったり、フィルムを没収されたりといった苦労を重ねながら、辞書片手に人々に声をかけて写真を撮影し続けた。今回のgallery bauhausの個展では、これまで未発表だったその「Siberia 1982」シリーズから37点が展示されていた。
落日の愁いを帯びているかのような男女の表情、街のあちこちにある巨大なレーニンの彫刻や肖像画、特権階級のみが所有を許される最高級車チャイカ、氷結し始めているバイカル湖──戸惑いと逡巡を隠すことのない眼差しによって捉えられた光景からは、この時期にしか写しえなかったであろうリアリティを感じることができる。「モスクワの街に到着した日。街の一角が燃えていた。二度の大きな爆発音」。揺らぐ思いを伝えるキャプションも効果的だ。
展示作品はすべてプラチナ・プリントで仕上げられているのだが、その選択についてはやや疑問が残った。プラチナ・プリントは、中間部のグレートーンの諧調の豊かさに魅力がある。だが、このシリーズにはむしろ白黒のコントラスト、特に暗部の締まりが必要であるように思えるからだ。展示プリントと、同時に刊行された写真集(Office Hippo)のくっきりとした印刷との間に、かなりの違いがあるのも、混乱を招くかもしれない。

2013/10/15(火)(飯沢耕太郎)

原芳市「ストリッパー図鑑」

会期:2013/09/25~2013/10/20

汐花[東京都]

原芳市の快走はさらに続いている。今回、東京・根津のギャラリー、汐花(Sekka Borderless Space)で開催されたのは、1982年に刊行された写真集『ストリッパー図鑑』(でる舎)の収録作品の印刷原稿として使われた、6切りサイズのプリント22点である。
やや黄ばみかけたヴィンテージ・プリントを見ていると、身を捩るような切なさがこみ上げてくる。原はこれらの写真を1974~80年にかけて撮影したのだが、その時期、全国各地には300館近いストリップ劇場があり(現在はその10分の1ほど)、踊り子さんの数もかなり多かった。彼が丹念に劇場を回り、踊り子さんたちと細やかな交流を積み重ねながら撮影したこれらの写真群は、彼女たちの揺るぎのない存在感を見る者にしっかりと伝える。踊り子さんたちの優しいけれどこちらを強く見据える眼差し、愁いと諦めを含んだ表情、薄い裸の胸、やや弛んだ腰まわり、そして彼女たちの楽屋に散らばっているぺらぺらの衣装や化粧品の類──原が写しとったそれらの細部が、もはや二度と見ることができない輝きを発しているように感じるのだ。文字通り体を張って生き抜いている者だけに許された、奇蹟のような一瞬の集積。「ぼくが愛してやまない踊り子たちの誇り高き肖像」。まさに埋もれていた名作と言えるのではないだろうか。
なお、汐花では新宿の路上写真家、渡辺克巳が残した1960~70年代のポートレート作品を定期的に展示している。本展と同時期には、その3回目として「HAPPY STUDIO!」展が開催されていた。

2013/10/13(日)(飯沢耕太郎)

TOKYO 1970 BY JAPANESE PHOTOGRAPHERS 9

会期:2013/10/05~2013/10/29

アルマーニ/銀座タワー9階[東京都]

東京・銀座のアルマーニの9階にできた新しいスペースで「時代を挑発した9人の写真家たち」というサブタイトルの写真展が開催された。出品作家と作品は有田泰而「First Born」、沢渡朔「Kinky」、須田一政「わが東京100」、立木義浩「舌出し天使」、寺山修司「摩訶不思議な客人」、内藤正敏「東京」、細江英公「シモン 私風景」、渡辺克巳「新宿群盗伝」、そして森山大道の「写真よさようなら」(写真集未収録作)である。
見ていてどこか既視感がある写真が多いのは、キュレーションを担当した長澤章生が、かつて彼が銀座で運営していたBLD GALLERYで展示した作品が多いからだろう。BLD GALLERYは現在休廊中なので、そのコレクションをこういうかたちでお披露目しておくのは悪くないと思う。1970年代は日本写真の黄金時代であり、この時期の写真を幅広い観客に知ってもらうには、とてもいい企画ではないだろうか。ただ「時代のトリックスターであった寺山修司を座標軸に据え、それぞれ何らかの形で彼の磁場と引き合う関係にあった」写真家たちを取り上げるという企画者の意図は、あまりよく伝わってこなかった。顔ぶれがあまりにも総花的すぎるし、作品点数もやや多すぎた。須田一政が45点、渡辺克巳が39点、内藤正敏が30点という数は、それほど広くない会場では、あまりバランスのよい展示にはならない。もう少し点数を絞り込んで、ゆったりと見せてもよかったのではないだろうか。
会場に作家解説、作品解説がまったく掲げられていないのも気になった。一人ひとりの写真史的な位置づけがもう少しくっきり見えてくれば、観客の興味をもっと強く喚起することができると思う。

2013/10/10(木)(飯沢耕太郎)