artscapeレビュー
原芳市「ストリッパー図鑑」
2013年11月15日号
会期:2013/09/25~2013/10/20
汐花[東京都]
原芳市の快走はさらに続いている。今回、東京・根津のギャラリー、汐花(Sekka Borderless Space)で開催されたのは、1982年に刊行された写真集『ストリッパー図鑑』(でる舎)の収録作品の印刷原稿として使われた、6切りサイズのプリント22点である。
やや黄ばみかけたヴィンテージ・プリントを見ていると、身を捩るような切なさがこみ上げてくる。原はこれらの写真を1974~80年にかけて撮影したのだが、その時期、全国各地には300館近いストリップ劇場があり(現在はその10分の1ほど)、踊り子さんの数もかなり多かった。彼が丹念に劇場を回り、踊り子さんたちと細やかな交流を積み重ねながら撮影したこれらの写真群は、彼女たちの揺るぎのない存在感を見る者にしっかりと伝える。踊り子さんたちの優しいけれどこちらを強く見据える眼差し、愁いと諦めを含んだ表情、薄い裸の胸、やや弛んだ腰まわり、そして彼女たちの楽屋に散らばっているぺらぺらの衣装や化粧品の類──原が写しとったそれらの細部が、もはや二度と見ることができない輝きを発しているように感じるのだ。文字通り体を張って生き抜いている者だけに許された、奇蹟のような一瞬の集積。「ぼくが愛してやまない踊り子たちの誇り高き肖像」。まさに埋もれていた名作と言えるのではないだろうか。
なお、汐花では新宿の路上写真家、渡辺克巳が残した1960~70年代のポートレート作品を定期的に展示している。本展と同時期には、その3回目として「HAPPY STUDIO!」展が開催されていた。
2013/10/13(日)(飯沢耕太郎)