artscapeレビュー

写真に関するレビュー/プレビュー

カタログ&ブックス│2012年11月

展覧会カタログ、アートにまつわる近刊書籍をアートスケープ編集部が紹介します。

「3.11とアーティスト|進行形の記録」記録集

企画・構成:竹久侑
編集:メディア・デザイン研究所
企画補佐:石井一十三
執筆:竹久侑、鷲田清一、椹木野衣、畠山直哉
年表作成:齋藤歩(メディア・デザイン研究所)、竹久侑
英文翻訳:コミューナ・トランスレーション・デザイン有限責任事業組合、Michael Levine、弓谷秀樹
写真:根本譲
デザイン:川村格夫(ten pieces)、河原弘太郎
発行日:2012年11月16日
発行:水戸芸術館現代美術センター
定価:1,900円(税込)
*展覧会会期中は、水戸芸術館内のミュージアムショップ「コントルポアン」のみでの限定販売
サイズ:A4判変形(バインダー式)、168頁

水戸芸術館現代美術ギャラリーにて開催中の展覧会「3.11とアーティスト|進行形の記録」の記録集。展示風景の写真と震災以降の活動概要で同展を再現するほか、参加作家へのメール・インタビューとテキスト(竹久侑、鷲田清一、椹木野衣、畠山直哉)によって、震災以降の社会の変動を辿る。震災以降の社会事象(震災・原発/文化・芸術)をまとめた年表も収録。「あれから」を見つめ「これから」を考えるための、もうひとつの「現在形の記録」。



アーカスプロジェクト 2010-2011 いばらき 活動記録集

発行日:2012年8月29日
発行:アーカスプロジェクト実行委員会 茨城県南芸術の門創造会議
サイズ:210×148mm 160頁

茨城県の守谷とその周辺地域を起点に、国際的に活動するアーティストが滞在制作を行うアーティスト・イン・レジデンスプログラム。レジデンスプログラムの紹介に加えて、過去に招聘したアーティストの現在の活動を追うアーティスト一覧や地域プログラムについての項目が設けられた、アーカスプロジェクト2010年から2011年の活動記録。[ARCUS サイトより]



アートスクールで学ぶ 101のアイデア

著者:キット・ホワイト(村上華子 訳)
発行日:2012年10月29日
発行:フィルムアート社
サイズ:132×180mm 123頁
定価:1,995円(税込)

アートの“本質”を身につけるための発想とは何か。作り、観て、深く感じるための方法が満載!ドローイングの基本、表現形式や素材の選び方から、構図の作り方、観察力の養い方まで。制作のテクニックと世界と対話するためのすべて─。[本書表紙より]



IMA 2012 Autumn Vol.1

発行日:2012年8月29日
発行:アマナホールディングス
サイズ:298×226mm 212頁
定価:1,500円(税込)

特集テーマは「家族」。写真が生まれてから今日に至るまで、洋の東西を問わず、数えきれない写真家がテーマとしてきた「家族」。この100年のバラエティに富んだ作品を振り返ることで、多様な世界観と手法の違いを楽しみ、また変革する世界の流れに思いを馳せる。[IMA サイトより]



陰影論 デザインの背後について

著者:戸田ツトム
発行日:2012年2月20日
発行:青土社
サイズ:180×126mm 255頁
定価:1,995円(税込)

速度と効率最優先の資本主義とデザインが、自然と環境を廃墟へと導く。運動/静止、強さ/弱さ、表層/深層と、見失われた微妙な空間に潜む〈陰影〉の豊かなダイナミズムを、デザインは捕捉・蘇生し、新たな社会を構築できるか─。[本書帯より]



森山大道 カラー color

森山大道 カラー color 発行日:2012年4月30日
発行:月曜社
サイズ:257×183mm 312頁
定価:4,830円(税込)

東京 2008-2012。白と黒のコントラスト、粒子のテクスチャー、フィルムと印画紙のマチエールを離れ、「色」に溺れることもなく、「そこにある東京」をコンパクトデジタルカメラ片手に4年にわたり撮りつづけた待望の最新作=カラー作品集![月曜社 サイトより]

2012/11/15(木)(artscape編集部)

神話のことば ブラジル現代写真展

会期:2012/10/27~2012/12/23

資生堂ギャラリー[神奈川県]

資生堂ギャラリーでは、これまでフィンランドとチェコの写真家たちの作品を紹介する展覧会を、それぞれ2009年と2010年に開催してきた。今回のブラジルの現代写真家、映像作家たちによる展示は、その連続展の第二弾ということになる。サンパウロ在住のインディペンデントキュレーター、エーデル・シオデットの企画によって、クラウディア・アンデュジャール、ルイス・ブラガ、ホドリゴ・ブラガ、ジョアン・カスティーリョ、エウスタキオ・ネヴェス、ケンジ・オオタの6名と、写真家ユニット、シア・デ・フォトの作品が展示された。
ブラジルは歴史的にも多様に引き裂かれた国であり、「ブラジル写真」の輪郭を指し示すのはかなり難しい。菅啓次郎が『花椿』(2012年12月号)に寄せたエッセイ「生きることを呼びかける『混血の国』の神話」で指摘するように、「ブラジルは一つではない。先住民のブラジル、植民者のブラジル、アフリカ系の人々のブラジル、さまざまな移民グループのブラジル。北と南、東と西が対立し、あらゆるレイヤーが重ねられ」ているのだ。それでも、今回の出品作家の作品を見ると、共通の要素として神話的な想像力への親和性があげられるのではないかと思う。たとえばクラウディア・アンデュジャールの矢の真美続の末裔たちを撮影した「見えないもの」「Reahu」といったシリーズや、エウスタキオ・ネヴェスの古写真を使用したコラージュ的な作品に色濃く表われている魔術的な時空間への傾きは、ルイス・ブラガのような都市を撮影する写真家の作品へも浸透してきている。日系二世のケンジ・オオタの岩や植物の表層を薄く引き剥がして重ね合わせていくような作品や、ホドリゴ・ブラガのひたすら地面を掘り続ける男を撮影した映像作品も、どこかシャーマニズム的な行為の痕跡のようだ。
彼らに日本の聖地を撮影してもらうような機会があれば面白いかもしれないと思った。この資生堂ギャラリーの連続企画も、そろそろ相互交流を本気で考えるべき時期にきているのではないだろうか。

2012/11/13(火)(飯沢耕太郎)

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アブストラと12人の芸術家

会期:2012/11/11~2012/12/16

大同倉庫[京都府]

美術家の田中和人が発案し、荒川医、小泉明郎、金氏徹平、三宅砂織、八木良太ら12名の作家(田中を含む)が参加した同展。そのテーマを要約すると、「現代における抽象表現とは」。1950年代に隆盛したアメリカの抽象表現主義の延長戦で語られてきた抽象表現を、今一度問い直してみようという意欲的な試みである。広大な倉庫を利用した会場には各作家の作品が十分なスペースを取って展示されており、街中の画廊では得られない美術体験をすることができた。近年、京都ではオープンスタジオをはじめとする作家主導の動きが顕著だが、本展のその流れのひとつであろう。彼らのバイタリティ溢れる行動には敬意を表したい。一方、肝心の「現代における抽象」は作品に託されたのみで、言語化・文書化はされていなかった。それが会期中に明確になるのか否かは定かでないが、一観客としては是非ステートメントを打ち出してほしいというのが本音である。

2012/11/11(日)(小吹隆文)

志賀理江子「螺旋海岸」

会期:2012/11/07~2013/01/14

せんだいメディアテーク 6階 ギャラリー4200[宮城県]

志賀理江子の「螺旋海岸」展を見る。いや「見る」というより、会場をずっとぐるぐるとさまよう「運動」だった。始まりもなく、終わりもなく。ぐるぐると。そして写真とまなざしをめぐる問いかけを反芻する。モノとして林立する大小の写真は、さまざまなまなざしが交錯する彼岸のランドスケープのようでもあり、彼女の頭のなかに入ったような不思議な記憶の体験だった。チューブがもたらす波紋としてのせんだいメディアテークの空間と、大きな渦を巻く写真の群れが響きあう。これまでに見たメディアテークの展覧会で、もっともダイナミックに建築と格闘し、素晴らしい成果をもたらしている。壁は一切ない。ゆえに、そのまま外光も射し込む。日没後は光の具合が違う。

2012/11/08(木)(五十嵐太郎)

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秦雅則/村越としや/渡邊聖子「まれな石および娘の要素」

会期:2012/11/01~2012/11/30

artdish g[東京都]

「ギャラリー+食堂」というユニークなコンセプトで運営している東京・神楽坂のartdishが、新たな企画を立ち上げて動き出した。2012年8月からA PRESSという出版部門が活動を開始したのだ。A PRESSは「写真作品を中心としたart pressであり、私たちの見ている写真に纏わるさまざまな要素を今一度、明確に可視化するための媒体」である。秦雅則が企画を、秦とともに四谷で企画ギャラリー「明るい部屋」を運営していた三木善一が編集を、artdishの沢渡麻知が総括を担当して、8月に秦雅則『鏡と心中』が、今回第二弾として村越しんやの『言葉を探す』が刊行された。さらに2013年の初めに、渡邊聖子の『石の娘』の出版が予定されている。
今回の展覧会は、そのA PRESSの作家たちのお披露目というべき展示である。彼ら自身が認めているように、「三人の作風は、まさに三者三様」だ。秦はカラーフィルムを雨ざらしにして腐敗させ、その染みや傷をそのままむき出しに定着したプリント、村越は故郷の福島県で撮影したモノクロームの風景写真、渡邊は小石や人物を撮影した写真に、ガラスをかぶせたりテキストを付したりしたインスタレーション作品を出品した。たしかに被写体として石や岩が登場するということはあるが、バラバラな印象は拭えない。とはいえ、1980年代前半の生まれという世代的な共通性に加えて、言葉と写真とが相互浸透する関係を大事にしていこうとする志向を感じとることができた。それはA PRESSのラインアップにも表われていて、秦の『鏡と心中』も村越の『言葉を探す』も、テキスト中心に編集されている。渡邊の展示でも「うつくしく なる/わたしのキズだった(痛み)/わたしはキズだった(痛み)」といった詩的な言葉を写真と組み合わせていた。このようなユニークな立ち位置から、実り豊かな表現が育っていくことを期待したい。

2012/11/08(木)(飯沢耕太郎)