artscapeレビュー

神話のことば ブラジル現代写真展

2012年12月15日号

会期:2012/10/27~2012/12/23

資生堂ギャラリー[神奈川県]

資生堂ギャラリーでは、これまでフィンランドとチェコの写真家たちの作品を紹介する展覧会を、それぞれ2009年と2010年に開催してきた。今回のブラジルの現代写真家、映像作家たちによる展示は、その連続展の第二弾ということになる。サンパウロ在住のインディペンデントキュレーター、エーデル・シオデットの企画によって、クラウディア・アンデュジャール、ルイス・ブラガ、ホドリゴ・ブラガ、ジョアン・カスティーリョ、エウスタキオ・ネヴェス、ケンジ・オオタの6名と、写真家ユニット、シア・デ・フォトの作品が展示された。
ブラジルは歴史的にも多様に引き裂かれた国であり、「ブラジル写真」の輪郭を指し示すのはかなり難しい。菅啓次郎が『花椿』(2012年12月号)に寄せたエッセイ「生きることを呼びかける『混血の国』の神話」で指摘するように、「ブラジルは一つではない。先住民のブラジル、植民者のブラジル、アフリカ系の人々のブラジル、さまざまな移民グループのブラジル。北と南、東と西が対立し、あらゆるレイヤーが重ねられ」ているのだ。それでも、今回の出品作家の作品を見ると、共通の要素として神話的な想像力への親和性があげられるのではないかと思う。たとえばクラウディア・アンデュジャールの矢の真美続の末裔たちを撮影した「見えないもの」「Reahu」といったシリーズや、エウスタキオ・ネヴェスの古写真を使用したコラージュ的な作品に色濃く表われている魔術的な時空間への傾きは、ルイス・ブラガのような都市を撮影する写真家の作品へも浸透してきている。日系二世のケンジ・オオタの岩や植物の表層を薄く引き剥がして重ね合わせていくような作品や、ホドリゴ・ブラガのひたすら地面を掘り続ける男を撮影した映像作品も、どこかシャーマニズム的な行為の痕跡のようだ。
彼らに日本の聖地を撮影してもらうような機会があれば面白いかもしれないと思った。この資生堂ギャラリーの連続企画も、そろそろ相互交流を本気で考えるべき時期にきているのではないだろうか。

2012/11/13(火)(飯沢耕太郎)

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