artscapeレビュー
秦雅則/村越としや/渡邊聖子「まれな石および娘の要素」
2012年12月15日号
会期:2012/11/01~2012/11/30
artdish g[東京都]
「ギャラリー+食堂」というユニークなコンセプトで運営している東京・神楽坂のartdishが、新たな企画を立ち上げて動き出した。2012年8月からA PRESSという出版部門が活動を開始したのだ。A PRESSは「写真作品を中心としたart pressであり、私たちの見ている写真に纏わるさまざまな要素を今一度、明確に可視化するための媒体」である。秦雅則が企画を、秦とともに四谷で企画ギャラリー「明るい部屋」を運営していた三木善一が編集を、artdishの沢渡麻知が総括を担当して、8月に秦雅則『鏡と心中』が、今回第二弾として村越しんやの『言葉を探す』が刊行された。さらに2013年の初めに、渡邊聖子の『石の娘』の出版が予定されている。
今回の展覧会は、そのA PRESSの作家たちのお披露目というべき展示である。彼ら自身が認めているように、「三人の作風は、まさに三者三様」だ。秦はカラーフィルムを雨ざらしにして腐敗させ、その染みや傷をそのままむき出しに定着したプリント、村越は故郷の福島県で撮影したモノクロームの風景写真、渡邊は小石や人物を撮影した写真に、ガラスをかぶせたりテキストを付したりしたインスタレーション作品を出品した。たしかに被写体として石や岩が登場するということはあるが、バラバラな印象は拭えない。とはいえ、1980年代前半の生まれという世代的な共通性に加えて、言葉と写真とが相互浸透する関係を大事にしていこうとする志向を感じとることができた。それはA PRESSのラインアップにも表われていて、秦の『鏡と心中』も村越の『言葉を探す』も、テキスト中心に編集されている。渡邊の展示でも「うつくしく なる/わたしのキズだった(痛み)/わたしはキズだった(痛み)」といった詩的な言葉を写真と組み合わせていた。このようなユニークな立ち位置から、実り豊かな表現が育っていくことを期待したい。
2012/11/08(木)(飯沢耕太郎)