artscapeレビュー
2017年03月01日号のレビュー/プレビュー
マリー・アントワネット展 美術品が語るフランス王妃の真実
会期:2016/10/25~2017/02/26
森アーツセンターギャラリー[東京都]
ヴェルサイユ宮殿所蔵のおよそ200点の美術品と資料等から、マリー・アントワネットの生涯をたどる展覧会。アントワネットをはじめ宮廷の人々の肖像画、彼女の人生と重なる国家的出来事を刻んださまざまな版画、彼女自身が身に付けた衣装、宮殿内を華やかに飾った調度品や食器の数々など、多種多様な展示品で「繊細で優美」といわれるロココ美術を堪能することができる。また、ランパ織という室内装飾用の布や、かの「首飾り事件」で知られる王妃の首飾りなど、当時の原画に基づいて現代の技術で複製された展示品からは、ロココ美術が到達したデザインや技術のレベルの高さをつぶさに見て取ることができる。会場内には、プチ・アパルトマンの浴室、図書館、居室など王妃のプライベート空間が実物や映像をつかって原寸大で再現されており、宮殿内に足を踏み入れたかのような感覚を楽しむこともできる。
フランス王妃、マリー・アントワネット。その悲劇的でドラマティックな生涯には日本でも関心が高い。貧困に苦しむ民衆をよそに贅沢と享楽に明け暮れた愚かな女性といったイメージがある。しかし本展をみて、自己プロデュースの才に秀で、幼いころから感性を磨き上げた宮廷美術の権化であり、ロココ美術を頂点へと押し上げた類い稀な能力の持ち主という見方もできるのではないだろうか、と認識があらたまった。[平光睦子]
2017/02/07(火)(SYNK)
DAVID BOWIE is | デヴィッド・ボウイ大回顧展
会期:2017/01/08~2017/04/09
寺田倉庫G1ビル[東京都]
デヴィッド・ボウイの28枚目にして最後のアルバム、『★(ブラックスター)』が発表されたのは2016年1月8日、彼が亡くなる2日前のことであった。1970年代にはグラムロックの旗手として名をはせ、1980年代には数々のアルバムをヒットさせてロック界のスーパースターの名をほしいままにしたデヴィッド・ボウイ。久々に発表されたこのアルバムが彼の健在ぶりを広く知らしめるものだっただけに、突然の訃報のショックは大きかった。
デヴィッド・ボウイの大規模な回顧展である本展は、2013年に英国のヴィクトリア・アンド・アルバート博物館で開催され、以降世界9都市を巡回して多くの動員を記録してきた。アジアでは唯一となる日本での開催は、デヴィッド・ボウイの70回目の誕生日にはじまったが、奇しくも遺作展の様相を帯びることになってしまった。ステージ衣装、写真、映像、そしてもちろん音楽から、デビュー前の写真、直筆のノートや絵画まで、300点以上のアイテムでボウイの50年間の活動を振り返る。ハイライトは四方のスクリーンに映し出される映像と音響や照明であたかもライブ・パフォーマンスのような空間がつくり出された「ショウ・モーメント」のセクション。そして見所は、日本展でのオリジナル展示「DAVID BOWIE MEETS JAPAN」のセクションである。北野武、坂本龍一と共演した映画『戦場のメリークリスマス』を中心としたこのセクションでは、日本のポップ・カルチャーにおけるボウイの確かな存在感と影響力の大きさに今さらのように感じ入った。[平光睦子]
公式サイトhttp://davidbowieis.jp
2017/02/07(火)(SYNK)
ARS ELECTRONICA in the KNOWLEDGE CAPITAL vol.07
InduSTORY 私たちの時代のモノづくり展
会期:2017/02/09~2017/05/07
ナレッジキャピタル The Lab. みんなで世界一周研究所[大阪府]
従来のアート、デザイン、科学、ビジネスの枠を取り払った、新たな時代のクリエーションを見せてくれるナレッジキャピタルの企画展。本展は、オーストリア・リンツのクリエイティブ・文化機関アルスエレクトロニカとのコラボ企画第7弾で、東京大学・山中俊治研究室プロトタイピング&デザイン・ラボラトリーと、さまざまな分野の人材から成るプロジェクトチーム、ニューロウェアの2組が登場した。プロトタイピング&デザイン・ラボラトリーの作品は、生物的な動きを見せる機械や同一素材からさまざまな触感を得るための試みであり、ニューロウェアの作品は、センサーやデータを駆使して人とモノのコミュニケーションを図るツールである。これらを現在のアートの文脈で評価するのは難しいが、今後はこうしたテクノロジー系の芸術表現が増えていくのは間違いないだろう。そのときアートは新境地を開拓するのか、それとも新たな領域に飲み込まれていくのだろうか。
2017/02/09(木)(小吹隆文)
乳歯(神村恵、津田道子)『知らせ♯2』
会期:2017/02/10~2017/02/13
STスポット[神奈川県]
昨年3月に神村恵、津田道子の2人で行われた『知らせ』の第二弾(今作からユニット名が「乳歯」とついた)。今回は山形育弘をまじえて3人での上演となった。7つのインストラクションから構成される。最初のインストラクション「言霊」は、まだ山形が登場していない時点で「一人目の山形さんが来る」と100回くらいか、2人で声を合わせ唱え続ける。これが典型的なように、今作のテーマは「見えないもの」との関わりである。山形が現われると、今度は神村が隠れる。山形が床上にあるプロップ(小道具)を即興で取り扱う(筆者が見た回では、山形は新聞紙をゆらゆらとなびかせた)。その後、神村が出てくると、床を這うような姿勢で、どうも床のあたりの空気を感じているようだ。津田がすかさず「何をしているんですか」と聞く。神村は「空気の揺れを確認しています」と答える。つまり、これは神村の不在中に山形がしていたことを当てるゲーム。新聞紙に手をやると、神村は新聞紙の隙間にテニスボールを差し込んだ。なるほど、神村の答えは正解にかなり近かったわけだが、狙いはもろちん、単にゲームに勝つことではない。舞台上で「見えないもの」にパフォーマーが関わること、それ自体を見せることが目論まれている。彼らはこの舞台を「修行」と呼んだが、ゴールのない場の形容としてとても興味深い。床を這う姿勢に「ダンスに見えますね」と、津田はコメントをマイク越しに挟む。津田だけではなく、神村も山形もインストラクションの合間にあるいは最中に対話をし続けている。この言葉たちは、舞台にメタ次元を与える。パフォーマーの行為に単に陶酔することを許さない仕掛けだ。言葉の介入やそうした読み替えは、その場の「関節」を外す。観客は、「見えないもの」をめぐるやりとりを目撃しながら、見えているもののなかに起こる間隙へ想いを馳せた。
2017/02/10(金)(木村覚)
つくるガウディ
会期:2016/11/05~2017/03/31
INAXライブミュージアム[愛知県]
INAXライブミュージアムで「つくるガウディ」展を見た。「土・どろんこ館」会場の企画「つくるガウディ─塗る、張る、飾る!」は、左官とタイルの職人の手によりアントニオ・ガウディ「コロニア・グエル教会」の未完の尖塔を、4分の1スケールでつくるというプロジェクト。1898年に教会建設の依頼を受けたガウディは10年にわたって模型実験を続け、工事が始まったのは1908年。半地下の聖堂は完成したものの、構造実験を反映するはずだった地上部分は未完のままになった。この地上部分を、ガウディが残した構造模型の写真から教会の設計を考察した松倉保夫氏の『ガウディの設計態度』(相模書房、1978)を元に建築家の日置拓人氏が立体を起こし、工場で作った構造体を展示室に建て込み、左官職人の久住有生氏とタイル職人の白石普氏が仕上げていく。筆者が展示を見た2月初めには、丸太で組んだ足場の上でタイルと左官による仕上げの公開制作が行なわれていた。使われている土は愛知県豊田と兵庫県淡路のもの。タイルは白石氏がデザインし、ミュージアム内の「ものづくり工房」で製作されたオリジナルが用いられている。「コロニア・グエル」でガウディがどのような装飾を計画していたのかは分かっていないそうで、それならば再現の際には実現した地階部分や建設中のサグラダ・ファミリアに倣ってつくらないのかという疑問が浮かぶが、ガウディが現場の職人たちと対話しながら工事を進めていったことを考えれば、地域の素材を使い、現場の職人の技術に従うことが、その建築思想を再現するここでの方法論なのだ。タイルはあらかじめ焼いておかなければならないが、貼り方は現場で決まり、タイルの構成によって仕上げの土の色も決まる。完成は3月末。4月中旬から5月末にかけて完成披露展示が予定されている。これまでの制作風景動画を同ミュージアムのホームページで見ることができる(http://www1.lixil.co.jp/culture/event/080_live_m/003614.html)。
本プロジェクトの会場である「土・どろんこ館」は、2006年に日置拓人氏の設計と久住有生氏の左官仕事でつくられたもの。日置、久住、白石ら3氏が登壇して2月11日に同館で行なわれたトークセッションでは、企画段階で訪れたバルセロナでの珍道中(?)や、「土・どろんこ館」建設にまつわる裏話などが披露された。このほか、「世界のタイル博物館」企画展示室では約40年にわたってガウディ建築を実測し、手描きによる図面制作を行なってきた田中裕也氏(本展の総合アドバイザーでもある)の図面とその道具が展示されている。[新川徳彦]
2017/02/11(土)(SYNK)