artscapeレビュー

2018年02月01日号のレビュー/プレビュー

明治維新150年 幕末・明治 ─激動する浮世絵

会期:2018/01/05~2018/02/25

太田記念美術館[東京都]

浮世絵というと江戸時代の庶民的メディアと思いがちだが、明治以降も盛んに発行されていた。むしろ明治以降のほうが量的には多いかもしれない。江戸時代は基本的に天下太平だったので、役者絵とか名所図会とか春画とかいわゆる趣味的な風俗画が大半を占めていたが、幕末から黒船来航に始まる激動の時代に突入したため、浮世絵のモチーフも横浜の異国人、鉄道や建築などの都市風景、戊辰戦争から日露戦争までの戦争画と激変、激増し、西洋の遠近法や陰影法を採り入れて表現も洋風化していく。そうした浮世絵の近代化の一番の立役者が、チャールズ・ワーグマンに油絵を学んだ小林清親だ。同じワーグマンに学んだ洋画家の高橋由一が、花魁や自然の風景など失われつつあるモチーフを油絵で描き残したのと対照的だ。

2018/01/05(金)(村田真)

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YANG FUDONG THE COLOURED SKY: NEW WOMEN Ⅱ

会期:2017/10/18~2018/03/11

エスパス ルイ・ヴィトン 東京[東京都]

吹き抜けの窓を塞いで真っ暗にして、映像を5面スクリーンで見せている。なんだせっかくの空間が生かされず残念、すぐ出てやる! と思ったが、映像が15分少々なので最後までつきあうことに。舞台は海岸、背景に山が見えるが、すべてジオラマ風のスタジオセットで、かつてのコンストラクテッド・フォトを彷彿させる人工的な色合いだ。水着姿の若い女性、生きたウマやヘビ、剥製のシカも登場する。動きはスローモーションだが、映像がスローなのではなく人の動き自体がゆっくりなのだ。5面の映像を交互にランダムに見ていたが、登場人物やモチーフが互いに関連し反響し合っているようで目が離せなくなり、結局予定を大幅に越えて30分くらい見てしまった。見て得したとは思わないけど、損はしなかった。

2018/01/05(金)(村田真)

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神聖ローマ帝国皇帝 ルドルフ2世の驚異の世界展

会期:2018/01/06~2018/03/11

Bunkamuraザ・ミュージアム[東京都]

昨年からアルチンボルド、ブリューゲル、そしてブリューゲル一族と、古典的な美の規範からちょっと外れた画家たちの展覧会が続く。そんなマニエリスム芸術をはじめ、錬金術や天文学など妖しげな学問芸術をこよなく愛した神聖ローマ皇帝ルドルフ2世の脳内宇宙に迫り、プラハ城内に築いたヴンダーカマー(驚異の部屋)を可能な限り再現してみようという好企画。出品作家はアルチンボルドとブリューゲル(ただし子孫のヤン親子)が有名なくらいで、あとはルーカス・ファン・ファルケンボルフ、ルーラント・サーフェリー、バルトロメウス・スプランガーといったあまり知られていない風変わりな画家たちが多い。いずれも現実にはない情景を細密に描いた幻想絵画で、その妖しさ、いかがわしさがまたルドルフ2世の趣味をよく反映している。

例えばファルケンボルフはバベルの塔や外遊するルドルフ一行を描いた小品、サーフェリーは森のなかに多種の動物を織り交ぜた博物画とでも呼ぶべきシリーズで、これらはアルチンボルドの《ウェルトゥムヌスとしての皇帝ルドルフ2世像》や、ヤン・ブリューゲル(父)の《陶製の花瓶に生けられた小さな花束》などと同様、この広大で多様な世界(マクロコスモス)を1枚の絵(ミクロコスモス)に閉じ込めようとしたものだといえる。そしてこうした思想が、ルドルフ2世の脳内宇宙ともいうべきヴンダーカマーを支えていたに違いない。出品はこのほか、天文学関連の書籍、望遠鏡、時計、天球儀、大きな貝殻や貴石でつくった杯などにおよんでいるが、いかんせん学芸にウツツを抜かして国政を疎んじたツケが回ったのか、皇帝の死後コレクションは侵略などにより四散してしまった。そのため今回は、日本も含めた各地から寄せ集めなければならなかったという。質的にも量的にも物足りなさを感じる人がいるかもしれないが(実際ルドルフ2世のヴンダーカマーは質量ともにこれをはるかに凌駕していたはず)、むしろよくここまで集めたもんだとホメてあげたい。

2018/01/06(土)(村田真)

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国家診断展 Who is “Prince YOSHIHISA”?

会期:2018/01/06~2018/01/08

聖徳記念絵画館+国立科学博物館+上野恩賜公園ほか[東京都]

「国家」を主題としてキュレーションされた展覧会。といっても、ある場所に集められた作品を見るのではなく、北白川能久親王(1847-95)を軸に、ガイドと関連場所を巡りながら国家、近代、日本について考えるツアーイベント。ガイドはアーティストのバーバラ・ダーリン。さて、明治天皇の義理の叔父に当たる能久は、幕末に上野の寛永寺に入り、輪王寺宮と通称された。彰義隊に擁立されて上野戦争に巻き込まれ、新政府軍に敗れて東北に逃走したものの降伏して京都で謹慎。処分を解かれてプロイセン(ドイツ)に留学し、軍事を学ぶ。帰国後は陸軍に属し、日清戦争終結後、近衛師団長として台湾に出征したもののマラリアに感染して死去。皇族では初の外地での殉職者となった。皇族の身でありながら新政府軍に歯向かったり、留学中ドイツ人女性と婚約したり(のちに破棄)、まとにかく型破りの人物だったようだ。

当日は神宮外苑の聖徳記念絵画館前に集合し、絵画館を見学。明治天皇の生涯を描いた80点(前半40点は日本画、後半40点は洋画)の壁画のうち3点ほどに能久は登場するが、前半に登場しないのは旧幕軍についたからだという。ちなみに絵画館の各壁画の前には古くさい解説板があるが、それとは別にガラス面に「壁画深読み!」と称する砕けた解説文が貼られ、作者や作品についても触れていた。つい2年前にはなかったものだ。鶯谷へ移動し、能久とは直接関係はないが、日清戦争時に外務大臣を務めていた睦奥宗光の旧別邸を鑑賞。土地も建物もずいぶん切り売りされたとはいえ、木造2階建ての瀟洒な洋館(白いペンキが剥げている)は住宅街の周囲から完全に浮いている。

次に能久ゆかりの東叡山寛永寺輪王殿へ行き、上野の山と寛永寺の由来や歴史を聞いてから、向かいの国立科学博物館へ。ここで企画展「南方熊楠──100年早かった智の人」を見る。南方も能久と直接関係ないが、重要なのは「神社合祀と南方二書」のコーナー。神社合祀とは明治政府が町村合併に伴い複数の神社を統合し、廃止された神社の土地を払い下げ、それで日露戦争の借金を返済しようという方針。これに対し熊楠は、多様な静物を育んだ貴重な神社の森が消えてしまうと猛反対、その反対意見をまとめた本が柳田國男によって出版された、いわゆる「南方二書」だ。上野恩賜公園の五重塔や東照宮や不忍池を巡って、九段下のカフェで台湾の神社についてあれこれ話し、最後は靖国神社の鳥居を確認して解散。近代国家への移行に伴う矛盾とドタバタ劇が、能久の生涯とその周辺に凝縮していることがわかった。

2018/01/08(月)(村田真)

「ふつう」をつくったデザイナー 桑澤洋子 活動と教育の軌跡

会期:2018/01/12~2018/01/13

桑沢ビル1階[東京都]

「ふつうの人の生活をより良くすること」。この一心で、ジャーナリストや服飾デザイナー、造形教育者として、大正、昭和の時代を走り抜けたのが桑澤洋子である。桑澤洋子の名を知らなくとも、桑沢デザイン研究所と東京造形大学の創立者といえば、なるほどと思うだろう。本展は、彼女の活動の軌跡を紹介する2日間のみの貴重な展覧会であった。同時代に服飾デザイナーとして活躍した女性はほかにもいるが、彼女が際立っていたのは、ドイツの造形学校バウハウスが掲げたモダニズムの思想を身につけていたことである。

本展には桑澤洋子が製作した、もしくは近年にデザイン画や写真を元に再製作された衣服が、「ふだん着」「外出着」「ユニフォーム」の3つに分類され展示されていた。併せてファッションショーも行なわれた。興味深いのは「ユニフォーム」だ。この中には1964年東京オリンピック競技要員作業衣もあった。これは競技場で働く人たちのユニフォームで、屋外作業で寒さが伴うことや袖をまくることが多い仕事であることを考慮し、襟元と袖口をジャージ素材で仕上げたことが特徴だった。実はユニフォームこそ、桑澤洋子がデザイナーとしての力を存分に発揮した分野である。当時、彼女は工場作業衣やビジネスウエアなどのいくつものユニフォームを手がけている。デザインにあたり、彼女は必ず現場に足を運び、実際の仕事を観察し、従業員の意見をヒアリングし、人が本当に働きやすい衣服をつくることに尽力したという。

「デザインは個の問題ではなく、衆の問題であり、社会の問題である」。桑澤洋子が語ったこの言葉は、現在も前述した両校の教育指針として継承されているという。つまりデザインはデザイナーの自己表現ではなく、いわば社会的表現であるということを意味している。高度経済成長期以降、デザインは経済の渦に飲み込まれ、実に矮小化してしまった。しかしデザインは製品に表面的な装飾を施して、単に購買意欲を煽るためのものだけではないはずだ。何やらおしゃれでかっこいいものでもない。デザインで「生活をより良くすること」という、桑澤洋子の思いをいま改めて噛み締めたい。


ファッションショー風景 桑沢ビル1階


展示風景 桑沢ビル1階

2018/01/12(杉江あこ)

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