artscapeレビュー

2019年02月15日号のレビュー/プレビュー

カタログ&ブックス│2019年2月

展覧会カタログ、アートやデザインにまつわる近刊書籍をアートスケープ編集部が紹介します。
※hontoサイトで販売中の書籍は、紹介文末尾の[hontoウェブサイト]からhontoへリンクされます





あわいゆくころ──陸前高田、震災後を生きる

著者:瀬尾夏美
発行:晶文社
発行日:2019年2月1日
定価:2,000円(税抜)
サイズ:四六判上製、360ページ

東日本大震災で津波の甚大な被害を受けた岩手県陸前高田市。絵と言葉のアーティスト・瀬尾夏美は、被災後の陸前高田へ移り住み、変わりゆく風景、人びとの感情や語り、自らの気づきを、ツイッターで継続して記録、復興への“あわいの日々”に生まれた言葉を紡いできた。厳選した七年分のツイート〈歩行録〉と、各年を語り直したエッセイ〈あと語り〉、未来の視点から当時を語る絵物語「みぎわの箱庭」「飛来の眼には」で織り成す、震災後七年間の日記文学。

インポッシブル・アーキテクチャー

監修:五十嵐太郎
編集:埼玉県立近代美術館、新潟市美術館、広島市現代美術館、国立国際美術館
発行:平凡社
発行日:2019年2月8日
定価:2,700円(税抜)
サイズ:A4判、252ページ
ブックデザイン:刈谷悠三+角田奈央/neucitora

実現しなかった建築、という先鋭的テーマの展覧会公式図録。マレーヴィチから現代まで、未完成建築ゆえの実験性と斬新さを一挙紹介。

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霧の抵抗 中谷芙二子展

著者:中谷芙二子
監修:水戸芸術館現代美術センター
寄稿:磯崎新、岡﨑乾二郎、かわなかのぶひろ、小林はくどう、萩原朔美、藤幡正樹、森岡侑士
発行:フィルムアート社
発行日:2019年2月15日
定価:3,800円(税抜)
サイズ:A5判、416ページ
デザイン:田中義久

自然に挑みながら、自然に委ねてゆく──霧の彫刻、ビデオ作品、コミュニケーション・プロジェクトなど、芸術と科学、技術と自然の融合の中で社会と人間の在り方を鋭く見つめる中谷芙二子の柔らかで強靭な〈抵抗〉の軌跡。
霧の彫刻やビデオなどの豊富な図版に加え、中谷芙二子作品をめぐる多彩な論考、中谷自身の過去の論考も掲載し、これまでの活動に込められた精神性を掘り下げます。これまで語られることのなかった歩みが紐解かれる貴重な一冊です。

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作字百景 ニュー日本もじデザイン

編集:グラフィック社編集部
発行:グラフィック社
発行日:2019年2月8日
定価:2,800円(税抜)
サイズ:B5判変型、並製、274ページ

フォントではない手描き文字を活かしたグラフィックやSNSで盛り上がる創作デザイン文字など、近年盛り上がる文字デザイン、レタリングの潮流をまとめた作例集。手の動きを活かしたダイナミックな文字からエモーショナルな文字、ポエティックな文字、メカニカルな文字など、デザイナー40組、約800作を掲載。

子どものための建築と空間展

監修:長澤悟
編集:パナソニック 汐留ミュージアム、青森県立美術館
発行:鹿島出版会
発行日:2019年1月19日
定価:2,200円(税抜)
サイズ:四六判変型、278ページ

こんなところで遊びたい。こんなところで学びたかった。
子どもの特権は遊びにほかならない。遊びや学びをどの子にも保証するために制度化された場が学校である。子どものための建築、空間、遊具、道具などには、大人が子どもに成長してほしいこと、伝えたいこと、期待することが表れている。

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2019/02/15(artscape編集部)

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加地大介『もの──現代的実体主義の存在論』

発行所:春秋社

発行日:2018/12/25

名著『穴と境界──存在論的探究』(2008)の著者による、10年ぶりの新著。本書が答えようとするのは「ものであるとはいかなることか」という壮大な問いであり、そこではアリストテレスに端を発する「実体主義的存在論」の立場が擁護される。専門的な内容であるには相違ないが、全体の論証になんとか食らいつくことができれば、「もの」を中心に据えるこの存在論が個体・因果・時間などにまつわる形而上学的問題に「有効な見通しや解決を与えてくれる」(6頁)という著者の言葉も、説得的なものとして聞こえてくるに違いない。

本書のタイトルにある「もの(agents)」ないし「実体的対象」とは、「純然たる実体とは言えないかもしれない」が、「典型的実体の特徴を一定程度において共有する擬似的な実体」をもそのうちに含むものである。反対に、そこからはっきりと除外されるのは、「集合・数・命題などの抽象的対象」や「できごと・プロセス・事態・事実などの、いわゆる『こと』として総称されるような対象である」(335頁)。裏がえして言えば、本書における「もの」概念は、時空や素粒子のような「基礎的な物理学的対象」はもちろんのこと、穴や境界のような「擬似的物体」、さらには人物や精神のような「物体」とは言いがたい対象や、企業や国家のような「社会的・制度的対象」すら(原則的には)排除することがない(4頁)。

非常に興味深い想定ではなかろうか。繰り返すが、専門的な哲学書である本書は、あくまで形而上学的概念としての「もの」の解明の試みであり、それは私たちが用いる日常概念としての「もの」と必ずしも一致しない局面もあろう。また、本書の議論を理解するには、様相論やカテゴリー論で用いられる論理式にあるていど親しんでおくことが必要である。とりわけ前半の様相論が難関だが、存在論により関心のある読者は、いちど前著『穴と境界』に迂回してみるのもよいだろう。気の短い読者は、第6章「総括と課題」へ。そこでは「ものであるとはいかなることか」という問いに対する著者の回答が簡潔に述べられるとともに、ある著名な画家の残した作品(のタイトル)について、ひとつの形而上学的な解釈が示される。

2019/02/18(月)(星野太)

石田真澄「evening shower」

会期:2019/02/02~2019/02/24

QUIET NOISE arts and break[東京都]

石田真澄は、1998年生まれという最も若い世代の写真家。高校時代から注目され、2018年にデビュー写真集『light years-光年-』(TISSUE PAPERS)を刊行した。今回展示されたのは、彼女が19歳から20歳にかけて撮影した写真である。

奥山由之や草野庸子など、若い世代の写真家たちのなかにフィルムカメラを使用して撮影・発表する者が目立つが、石田もそのひとりである。われわれにとっては、ややノスタルジックな思いにとらわれてしまうのだが、彼女たちにはフィルムや銀塩プリントの淡く、ややざらついた質感がとても新鮮に思えるのだろう。そのあたりのギャップを頭に入れたとしても、彼女が見せてくれる世界のあり方そのものが、あまりにも後ろ向きに思えてならない。色や形や光に対する鋭敏な感受性、被写体の動きをあらかじめ予測してシャッターを切っていく能力の高さ、画面構成の巧みさなど、写真家としての美質は充分過ぎるほど持っているのだが、この場所に自足してしまいそうな妙な安定感が気になってしまう。

写真展に寄せた文章に、「もうくせだと思うけれど/いつもいつも目先の不安ばかり気にしてしまい/今ここにあるものを大切にできない時がある/写真を撮ると少しだけ不安が消える気がしている」と書いているのだが、「今ここにあるものを大切」にする必要などないのではないか。むしろ「不安」を大事に育て上げ、それを梃子にして写真を撮り続けなければ、次のステップに進めないのではないだろうか。まばゆいほどの才能の輝きが色褪せないうちに、心揺さぶる不確実な世界に目と体を向けていってほしい。

2019/02/19(火)(飯沢耕太郎)

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