artscapeレビュー

2021年11月15日号のレビュー/プレビュー

妹島和世+西沢立衛/SANAA展「環境と建築」

会期:2021/10/22~2022/03/20(※)

TOTOギャラリー・間[東京都]

※事前予約制


いまや飛ぶ鳥を落とす勢いの建築家、妹島和世+西沢立衛/SANAAの展覧会が開催中である。昨年、予定されていたもののコロナ禍で延期となり、満を持しての開催となった。彼らが掲げたテーマは「環境と建築」。果たして、彼らが考える環境とは何なのだろうか。本展を観てから、ずっとそのことを考えていた。SANAAの建築というと、平易な言葉で言ってしまえば、ガラスと白っぽい壁を多用した繊細で透明感のあるイメージが思い浮かぶ。それぞれがユニークな外形でありながら、高さが比較的抑えられた建築が多いためか、周辺環境への圧力は少なく見える。しかし自己主張していないかというとそうでもなく、静かに自己主張していると言うべきか。


展示風景 TOTOギャラリー・間 3Fエントランス ©ナカサ&パートナーズ


本展に展示された近年の建築事例の模型や写真を観ると、確かに周辺環境との調和に配慮したデザインが多いように感じた。そこの地形や自然、風土に合わせた建物の建て方をしているように見えるのだ。こうした調和の取り方が建築に求められる環境と考えているのだろうか。参考までに刊行がやや古いが『妹島和世+西沢立衛読本─2013』(A.D.A. EDITA Tokyo、2013)をめくってみると、彼らへの長いインタビューのなかでまさにこの点が触れられていた。建物の建て方を妹島は「着地感」と独特の表現をしている。「〜建築の着地の仕方が柔らかくなりました」とか「〜もう少し違う着地感を考えられたかもと思います」という具合だ。まるで彼方からやって来た宇宙船のような表現だが、なるほど、そこの地域や住民にとってみれば、建築も大きな宇宙船のような存在なのかもしれない。だからこそ住民らが望む・望まないにかかわらず、異質な存在を受け入れてもらうための配慮や工夫が必要なのだ。


展示風景 TOTOギャラリー・間 3F室内全景 ©ナカサ&パートナーズ


良くも悪くも、建築は周囲の景観を変える影響力がある。そうした建築が持つ暴力性や威圧感のようなものを彼らは重々知っているのだろう。それは施主だけの責任ではない。建築家としてそれを思うからこそ、建築と環境の関係を常々考えざるを得ないのかもしれない。彼らなりの模索の仕方で。それにしても近年のSANAAの仕事には、中国をはじめとする海外案件が多い。世界から求められる卓越した建築家がこうして日本にいることを誇らしく思う。


公式サイト:https://jp.toto.com/gallerma/ex211022/index.htm

2021/11/04(木)(杉江あこ)

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カタログ&ブックス | 2021年11月15日号[近刊編]

展覧会カタログ、アートやデザインにまつわる近刊書籍をアートスケープ編集部が紹介します。
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ベンヤミン メディア・芸術論集

著者:ヴァルター・ベンヤミン
訳者:山口裕之
発行:河出書房新社
発行日:2021年11月8日
サイズ:15cm、416ページ

いまなお新しい思想家の芸術・メディア論の重要テクストを第一人者が新訳。映画論、写真論、シュルレアリスム論等を網羅。すべての批評の始まりはここにある。「ベンヤミン・アンソロジー」に続く決定版。(河出文庫)

KUSAMA

著者:エリーザ・マチェッラーリ
訳者:栗原俊秀
発行:花伝社
発行日:2021年10月25日
サイズ:A5判、144ページ

比類なき成功を収めた「女性芸術家」、その光と影──前衛の女王・草間彌生の「闘い」を鮮やかに描いたイタリア発のグラフィック・ノベル

千夜千冊エディション 全然アート(角川ソフィア文庫)

著者:松岡正剛
発行:KADOKAWA
発行日:2021年10月21日
サイズ:文庫判、560ページ

アルタミラの洞窟画、ルネサンスの遠近法、印象派の革命、そしてコンセプチュアルアートへ。絵画も日本画も現代アートも、松岡正剛が内外のアートを巡り惚れこんだ作品をすべて詰め込んだ特別編。図版多数。

映画論の冒険者たち

編集:堀潤之、木原圭翔
発行:東京大学出版会
発行日:2021年10月28日
サイズ:A5判、312ページ

映画についての百花斉放百家争鳴.クラカウアー,バザン,蓮實,メッツ,マルヴィ,ボードウェル,ガニング、カヴェル,ドゥルーズ, ランシエール…….彼ら/彼女らが映画に関して紡いだ思考のエッセンスを浮かび上がらせる.第一線で活躍する映画研究者が執筆する映画論を知り学ぶための最強テキスト



生きていること 動く、知る、記述する

著者:ティム・インゴルド
訳者:柴田崇、野中哲士、佐古仁志、原島大輔、青山慶、柳澤田実
発行:左右社
発行日:2021年11月10日
サイズ:四六判、604ページ

《人類が生きることを取り戻すために》ひとが生きるということ、それはこの世界の終わりなき流動のなかに身を置き、世界を変えながら自らも変わり続けてゆくことだ。芸術・哲学・建築などのジャンルと人類学の交わるところに、未知の学問領域を切り拓いてきたインゴルド。その探究を凝縮する主著、待望の邦訳!



音と耳から考える 歴史・身体・テクノロジー

編著:細川周平
発行:アルテスパブリッシング
発行日:2021年10月25日
サイズ:A5判、640ページ

音楽学者・細川周平が国際日本文化研究センターで主宰した研究プロジェクトの成果を刊行。「音楽」にとどまらず、自然や人、機械などが発するありとあらゆる音を対象に、音を受ける聴覚器官(耳)から発想しながら、音と耳の文化・歴史を問い直す意欲的な論集です。


彫刻の歴史

著者:アントニー・ゴームリー マーティン・ゲイフォード
訳者:石崎尚、林卓行
発行:東京書籍
発行日:2021年10月22日
サイズ:A4変形、392ページ

彫刻界の巨人アントニー・ゴームリーと気鋭の美術批評家マーティン・ゲイフォードが、ストーン・ヘンジから鎌倉大仏まで、ラオコーンからダミアン・ハーストまで、古今東西の「彫刻」の流れを、18のテーマ・論点で語り尽くす。


TOKAS-EMERGING 2021

編集:トーキョーアーツアンドスペース
翻訳:アンドレアス・シュトゥールマン
参加アーティスト:水上愛美、宮川知宙、都賀めぐみ、久木田 茜、GengoRaw (石橋友也+新倉健人)、辻󠄀 梨絵子
発行:公益財団法人 東京都歴史文化財団 東京現代美術館トーキョーアーツアンドスペース
発行日:2021年10月30日
サイズ:A5判

2021年4月3日〜5月5日(第一期)、5月15日〜6月13日(第二期)まで、トーキョーアーツアンドスペース本郷で開催されていたTOKAS-Emerging 2021のカタログ。




林智子「虹の再織」展覧会カタログ

著者:林智子、平芳幸浩、芦田彩葵、田儀佑介
翻訳:ベンジャー桂、芦田彩葵、林智子、Linda Schaefer,Foster Mickley、田儀佑介
発行:公益財団法人 西枝財団
発行日:2021年10月20日
サイズ:A4判変形、64ページ

2021年5月1日〜5月30日まで、瑞雲庵(京都)で開催されていたアーティスト 林 智子氏「虹の再織」展のカタログ。






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2021/11/12(金)(artscape編集部)

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