2018年02月15日号
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artscapeレビュー

岩渕貞太、関かおり『Hetero』(「DANCE-X13: MONTREAL:TOKYO:BUSAN, 3rd Edition)

2013年07月01日号

会期:2013/05/31~2013/06/02

青山円形劇場[東京都]

闇にスピーカー経由の溜息が漏れる。その直後、男と女が光に照らされた。貝のように向き合う2人。次第にゆっくりとした動作で体の形を変えていくのだけれど、線対称の鏡写し状態で、男が手を延ばせば女も手を延ばし、二つの手は重なる。緻密に同期するユニゾンは、無音のなかで、美しい緊張を保つ。身長差が20センチほどある2人だから、完璧に一致するわけではない。微小なズレは、タイトルが示すような「違い(hetero)」を気づかせるが、ユニゾンの緻密さがともかく徹底していて、2人を人間離れさせる。カナダ、韓国、日本の振付家・ダンサーがそれぞれの国で上演をしてゆくという文化交流の意味合いもある「DANCE-X13」という企画で、彼らは異彩を放っていた。カナダ(ヘレン・シモノー『FLIGHT DISTANCE III: CHAIN SUITE』)と韓国(キム・スヒョン『KAIROS』)の作品は、特徴ある音楽がベースとして流れていて、ダンサーたちはその音楽にリズムを合わせたり、やや離れたりしながら、いかにもコンテンポラリーダンスというような「らしい」運動を見せる。岩渕貞太と関かおりのダンスは、そうした音楽的要素もないし、そもそも何々「らしい」と特定できるような動きではない。圧倒的な個性がそこにあった。一定のスローな動きが、音楽に縛られるような類のダンスの時間性を失効させる。しかし、ずっとスローというのでもなく、素早い動きも差し込まれ、ギアを変えていくからこそ、この個性は引き出されているのだろう。10分ほど過ぎたあたりだろうか。最初のとは異質な男の大声で溜息がまた舞台に投げ込まれた。すると、この2人と溜息の主との関係が、気になってくる。2人は巨大な怪物の胃袋の中で、いまこうして生きている? 正確なことは皆目わからないのだが、そうした連想が湧いてくる。そうなると、2人の体はじつはとてもミクロなスケールなのではないか、などといったさらなる連想に誘われる。形が少しずつ変わり、体が絡まり合うと、2人は未知の昆虫のように見えてくる。その一方で、女の体の丸さや男の体の頑強さが2人を人間に引き留める。3回目の溜息が舞台にこだました。たまたま2人を照らしていた光が2人を見失った。そんなふうに、2人の運動は見えなくなった。

2013/05/31(金)(木村覚)

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