artscapeレビュー

天才ハイスクール!!!!

2013年07月01日号

会期:2013/06/01~2013/06/29

山本現代[東京都]

「天才ハイスクール!!!!」とは、Chim↑Pomの卯城竜太が講師を務める美学校の講座名で、本展は同講座の修了生を中心にしたグループ展。2011年以来、東京は高円寺の素人の乱12号店を会場にそれぞれ個展を開催してきたが、ついに昨年は旧東京電機大学の校舎で催された大規模なグループ展「TRANS ARTS TOKYO」で大いに注目を集めた。
その最も大きな特徴は、荒削りで奔放、野性的で直情的な美術表現。それは、ほとんどが美術の高等教育を受けておらず、その経験がある場合でも、おおむねドロップアウトしているという出自に由来している。アカデミックな知識や高度な技術は欠落しているが、その反面、美術教育の現場では敬遠されがちな、きわめてストレートなエネルギーの放出が、彼らの強みである。自分たちの日常と分かち難く結びついているネットカルチャーやアイドル、ゲーム、グラフィティといった若者文化を背景にしながら、家族愛や生きにくさ、3.11、生と死の問題といった、同時代の主題を表現する方法が、じつに清々しい。
事実、本展では旧作もかなり展示されていとはいえ、展示会場はおろか階段や洗面所、物入れなどのバックヤードにも作品を設置することで、それらの作品によって既存の空間を押し広げるほどの強力な表現意欲が伝わってくる。なかでも自分の母親への愛をテーマにした映像を見せた大島嘉人と、階段を無限に駆け上がるパフォーマンスを映像で見せたケムシのごとしが今回は際立っていた。前者は、ちょうど森美術館のLOVE展における出光真子の映像作品とは対照的に、息子の視点から母親との関係性を実直に描いたとすれば、後者は駆け上がっても駆け上がってもどこにも到達しえない今日的な無常感を簡潔に表現したのである。
とはいえ、一抹の危惧を覚えないわけではない。彼らは着々と経験値を上げており、作品そのものの質は別として、少なくとも空間の使い方に関しては抜群のセンスを発揮している。こうした点は、むしろ多くの美大生は見習うべきだろう。ところが、会場に立ち込めていた野性的で破天荒な空気感は、一方で容易にパッケージ化されやすい。仮に同展を地方都市の会場に巡回させたとしても、それぞれの会場で異なる空間的な特性を読み取りながら、ほぼ同水準の展示を構成することができるに違いない。だが、それ自体がひとつの芸風として定着すると、当初はその斬新さに目を奪われていた鑑賞者は必然的に作品の質を問うことに焦点を合わせるようになる。いくら集団性に基づくとはいえ、いくら美術教育の外側にいるとはいえ、最終的に問われるのはやはり個別の作品なのだ。
Chim↑Pomのように強固な集団的主体性を構築しているわけではなく、あくまでも個々のアーティストの集団としてあるならば、彼らにとって必要なのは「天才ハイスクール」という枠組みの外側に踏み出すことではないか。それは、天才ハイスクールという看板のもとで個展を催すことではない。もっと徹底的に外部へ踏み外し、さまざまな世界を渡り歩き、あるいは徹底的にひきこもり、場合によってはアートからも距離を取るような方向性に身を投げ出すこと。逆説的かもしれないが、野性が飼い慣らされることを拒否しながら表現をさらに展開するには、そのような方策が最も適切だと思う。

2013/06/13(木)(福住廉)

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