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美術工芸の半世紀 明治の万国博覧会展[II] さらなる挑戦

2016年12月01日号

会期:2016/10/29~2016/12/04

久米美術館[東京都]

幕末から明治期にかけて日本が参加した万国博覧会を取り上げる全3回のシリーズ。昨年に続く第2回では、前回同様に久米邦武・桂一郎親子および霞会館(旧・華族会館)とのかかわりを背景に、3つの万博と2つの内国勧業博覧会が取り上げられている。第1章は、1888年/明治21年にスペインで開催されたバルセロナ万博。日本は参加国のひとつであったが、スペインとの通商上の交流は少なく、政府は実質的な出品手続きを松尾儀助の起立工商会社に委任。松尾と久米邦武がかねてより昵懇であったことで、当時21歳で画学生としてパリに留学中であった息子の久米桂一郎が博覧会事務に従事している。桂一郎の回顧に「陶磁器の如きも余りに平凡であつたので、私がフランスの知人へ土産品用に取り寄せた有田焼の人形及動物の赤絵置物数個を陳列に加へたのが金牌を受賞された」とあるのが興味深い。取り寄せた有田焼とは、父・久米邦武が設立にかかわった有田・香蘭社あるいは精磁会社の製品だったのだろうか。第2章はバルセロナの翌年、1889年/明治22年にフランス革命100周年を記念して開催された第4回パリ万博。久米桂一郎はこの万博に通訳として関わっている。第3章は、1893年/明治26年にコロンブスの新大陸上陸400年を記念して開催されたシカゴ万博(別名コロンブス世界博覧会)。このとき日本は平等院鳳凰堂を模した鳳凰殿を建設。日本からの出品数は1万6500点に及んだという。万博会場には参加各国の女性の出品作を展示した女性館が設けられ日本人の女性画家の作品14点が出品されたほか、「高貴な婦人の私室」2部屋が設置され、大名家の婚礼調度が飾り付けられていた。
本展には久米桂一郎関連資料のほか、各万国博覧会、内国勧業博覧会関連資料が出品されている。美術工芸品についてはシカゴ万博出品作が中心で、なかでも女性館に陳列された渡辺幽香「幼児図」は、豊臣秀吉に仕えた福島正則が2歳で石臼を引いた怪力の逸話に取材した画と、工芸的な意匠が施された額縁がとても印象的だ。このところ関心が高まっている明治の輸出工芸隆盛の時代背景を知るために、日本の美術工芸品を海外にプロモートする場であった万国博覧会や内国勧業博覧会、そしてその運営を担った人物に焦点を当てる本展覧会シリーズは、小規模ながらも注目すべき企画だ。[新川徳彦]

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