2017年12月15日号
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artscapeレビュー

前橋の二人:村田峰紀・八木隆行

2017年01月15日号

会期:2016/12/03~2016/12/24

CAS[大阪府]

群馬県・前橋を拠点に活動する1970年代生まれの二人のアーティスト、村田峰紀と八木隆行を紹介する企画。両者の共通項はパフォーマンス性の強い表現にあるが、そのベクトルは対照的だ。村田峰紀は、まるでロックミュージシャンがギターを激しくかき鳴らすように、支持体の表面にボールペンを突き立てて暴力的に線を描き殴り、破壊的な力が加えられた表面の痕跡を提示している。その行為は「ドローイング」というよりは「表面を削り取る」と言った方が近い。ベニヤ板はボロボロに風化した樹肌を思わせ、金属板は熱で溶解したかのような無残な姿をさらしている。唸り声を発しながら全身の力を込めて描き殴る姿は怒りや狂気すら感じさせ、「表現行為」に潜在する暴力的な力を増幅し、見る者にあらためて突きつける。
このように破壊的で内向的な村田に対して、八木隆行は、自作の「浴槽(兼ボート)」をバックパックのように背負って山野や清流などを歩き、湯を沸かして入浴するというパフォーマンスを行なっている。山歩きを楽しんだ後、豊かな緑に囲まれて汗を流す。雪景色の中で湯につかりながらビールを飲む。あるいは、無人の屋上空間を独り占めして入浴する。まるで野点のように、狭く閉じた個室空間を飛び出して屋外の広い空間へ赴き、景色を楽しみながら入浴する姿は、開放的でおおらかさを感じさせる。大阪で開催された本展では、道頓堀からギャラリーまでの道のりを「浴槽」を背負って歩き、ギャラリーの入居する雑居ビルの屋上で入浴パフォーマンスが行なわれた。
ここで八木のパフォーマンスが興味深いのは、一見するとユルく脱力的で無為にすら思える見かけのなかに、密かに政治性を内包している点だ。自然の山野やビルの屋上など屋外の公共的な空間を一時的に占拠し、プライベートな空間へと変容させること。さらに、入浴=「裸になること」を、単に衛生上の日課を超えた、「日本人が大好きな娯楽的習俗」という私的で非政治的な理由に回収させてぬけぬけと成立させ、しかも悠々自適に楽しみながらやってのけるところに、「自主規制・検閲」が跋扈する現在、パフォーマンス・アートとしての八木の優れた政治性がある。
前橋と言えば、2013年に開館したアーツ前橋が記憶に新しいが、「群馬」という地方に拠点を置くことに対して意識的に活動してきた作家に、白川昌生がいる。70~80年代に渡欧し、帰国後の1993年、地域とアートをつなぐ美術活動団体「場所・群馬」を創設した白川の活動は、2014年にアーツ前橋で開催された個展「ダダ、ダダ、ダ 地域に生きる想像☆の力」でも総括的に紹介されていた。そうした前橋(群馬)という地方都市がもつ土壌の豊かさや場所のポテンシャルについても考えさせる展覧会だった。

2016/12/07(水)(高嶋慈)

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