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artscapeレビュー

7つの海と手しごと〈第7の海〉北太平洋と北西海岸先住民のトーテム

2017年01月15日号

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会期:2016/11/19~2017/12/18

世田谷文化生活情報センター:生活工房[東京都]

世界の海沿いの地域に暮らす人々の生活を紹介するシリーズ。2011年5月から始まった7回の展覧会を見てきて印象に残ったのは、海との関わりで生きてきた人々の生活と、それらの人々に伝わる手しごと、文様、デザインが示す民族のアイデンティティだ。最終回となる本展では、北米大陸北西部、カナダ・ブリティッシュコロンビア州を中心にアメリカ合衆国アラスカ州、ワシントン州の太平洋岸沿いに住む先住民たちの暮らしが取り上げられている。北西海岸先住民は半定住社会で、春から秋はキャンプ地で漁労を中心に食糧を蓄え、冬には村に集まり過ごしてきた。豊富にとれるサケ類を乾燥・燻製して貯蔵して冬期の食糧とするほか、ユーラコン(蝋燭魚と呼ばれるほど油分が多いという)から採れる油は交易品ともなった。北西海岸先住民は、動物と人間を同一視し、特定の動植物や自然現象を自分たちの祖先と特別な関わりがあるものとして信じてきた。これを「トーテム」といい、ワタリガラス、ワシ、オオカミ、シャチ、クマなどの意匠が個人や集団のアイデンティティ、一族の由来を伝えるものとして家や柱、生活道具や衣類、儀礼用具などに描かれたり彫刻されたりしてきた。展示では、北海道立北方民族博物館が所蔵する資料を中心に、北米大陸北西海岸地域の地理や歴史、トーテムの意匠を施した道具類や版画、先住民たちに伝わる神話、生活や風習を記録した映像などによって、北西海岸先住民の過去と現在の生活文化が立体的に紹介されていた。展示品のなかでも1980年代から90年代に制作されたシルクスクリーン版画は、先住民の神話を語るものとしても意匠としても印象的であるばかりではなく、白人の到来以来先住民たちが被った苦難とアイデンティティ再生の歴史を物語るものでもあって、とても興味深い★1
「トーテム」が施されたものとして日本でもよく知られているのはトーテムポールだろう。本展では19世紀に撮影された写真や、現代のミニチュアのトーテムポールが紹介されている。恥ずかしながら、筆者はこれまでトーテムポールを北米先住民に共通する彫刻柱と誤解していた。とはいえ、そのような誤解はゆえなきものではないらしい。誤ったイメージの源泉は1953年のディズニー映画「ピーターパン」。この映画の中にはティーピーと呼ばれる円錐状のテントとトーテムポールの前で羽根飾りを付けた先住民たちが踊るシーンがある。しかしながら、劇中に描かれている先住民は平原地帯で移動生活をしていた人々のイメージであり、本来トーテムポールを建てたのは大きな樹木が茂る地域に定住していた北西海岸先住民の一部の部族のみで、両者の生活圏、暮らし、風俗はまったく異なるのだ★2。ところで、かつて日本各地の小学校の校庭にもしばしばトーテムポールが見られた。トーテムポールになにか親しみを覚えるのはそのせいもあるのだろう。いったいなぜ日本の学校に北米先住民の彫刻柱を模したものが建てられたのか。小学校で図工教育に携わった大先輩の話によれば、昭和40年代終わりから50年代にかけて街の電柱が木製からコンクリート製へと切り替えられていった際に、不要になった木製電柱をもらい受けて図工の共同制作としてつくられたのだという。誰が電柱でトーテムポールをつくることを最初に思いついたのかは分からないが(ここにもディズニー映画は影響していただろうか)、お金がかからず共同制作に適したものとして、教員の研究会を通じて各地に広まっていったのだろうということだ。[新川徳彦]

★1──北海道立北方民族博物館が収集した北西海岸先住民の版画については、齋藤玲子「北海道立北方民族博物館所蔵の北西海岸インディアンの版画について」『北海道立北方民族博物館研究紀要』第17号、2008年。
このほか、北西海岸先住民の美術については国立民族学博物館の調査報告書が詳しい(齋藤玲子編『カナダ先住民芸術の歴史的展開と現代的課題』国立民族学博物館調査報告、131、2015年)。
★2──細井忠俊『トーテムポールの世界─北アメリカ北西沿岸先住民の彫刻柱と社会─』彩流社、2015年4月、58頁。

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