2018年04月15日号
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artscapeレビュー

印紙・証紙 小さなグラフィック・デザインの世界

2017年03月01日号

会期:2016/12/20~2017/03/05

お札と切手の博物館[東京都]

グラフィック・デザイナー下邑政弥氏が長年にわたって収集し2015年にお札と切手の博物館に寄贈した日本の印紙・証紙に、同館が所蔵する資料を加えた企画展。印紙・証紙とは、税金や公的な手数料の支払い等を証明するために領収書や申請書、文書等に貼付するもので、その使用形態から切手に似た形状のものが多い。世界で初めて「収入印紙」の制度が導入されたのは1624年のオランダで、このときは文書に型押しをすることで税金の支払いを証明するものだったという。イギリスの北米植民地が独立する契機をつくった1765年の印紙法(Stamp Act)は、植民地で用いられる新聞雑誌の用紙、契約書用紙、トランプ等の用紙に、課税済みの型押しまたは印刷を施した用紙を用いることを義務づけるものだった。印刷物を貼付する形式の印紙が登場するのは18世紀末のイギリス。「手数料が支払い済みであることを証明する紙片」という意味では郵便切手も印紙・証紙の一種だ。ちなみに世界最初の郵便切手(postage stamp)が発行されたのは1840年なので、印紙(revenue stamp)の方が登場が早い。日本初の納税証紙(「蚕種印紙」=蚕の卵を産み付けた紙に課税した)は明治5年。日本初の郵便切手発行の翌年だ。最初の「収入印紙」の発行は明治6年。なお、政府が発行するものを「印紙(収入印紙や特許印紙等)」といい、都道府県等地方公共団体や民間機関が発行するものを主に「証紙」と呼ぶそうだ。
本展は印刷技術、貼付対象、使用分野の違いによって生じるデザインの多様性から日本の印紙・証紙を見る構成。印刷に関しては、政府が発行する印紙は最初期を除いて印刷局の製造によるもので、特に高額面のものは用紙や印刷にお札や切手と同様の技術が用いられている。偽造防止という点で、印紙は切手よりも(あるいは紙幣よりも)高額面のものが多く(現在発行されている収入印紙の最高額面は10万円)、用紙に透かしが入っているほか、色を付けた繊維を漉き込んだり(毛紙)、特殊な印刷技術が用いられている。貼付対象による違いは、それが文書に貼られるのか、モノに貼られるのかという違いだ。前者は主に切手に準じた形態。後者は、商品の包装を封印するものや、商品そのものに貼付するステッカータイプのものなど、物品の形態、素材によってさまざまな形式がある。使用分野による違いは、物品の形態によるヴァラエティなので、貼付対象の違いと重なる部分がある。典型的なものはラムネ瓶の口に貼られる封緘で、その一部に「物品税之証」が印刷されている。
課税されるということはそれらの商品が正規に製造(輸入)、流通されたものであることを意味する。本展で興味深かったのは、その結果として、印紙・証紙がしばしば商品の品質を保証するかのようなイメージに転化している例が見られることだ。すなわち、印紙・証紙が商標の役割も果たしているのだ。そしてさらには、印紙・証紙が人々に与える「正規品」のイメージを引用するデザインも現われる。各地の伝統工芸品に付される産地の証票(商標)はその例だ。地紋のデザインにしばしば彩紋が用いられているのも、単に偽造防止という意味だけではないだろう(下邑コレクションには、そうした印紙・証紙に類似する印刷物も含まれている)。もうひとつ面白いのはかつては課税の証明だったものが、形式だけ残ったもの。例えばタバコパッケージの口に付いているラベルは、たばこ事業民営化後も封緘紙、商標ラベルとしての機能を残している。かつて映画館等で用いられていた入場税用紙のデザインは、現在でも一部の映画館の入場券のデザインに残っている。薬品瓶やラムネ瓶、トランプの封緘は、それらが未開封であることを示す機能として残っている。本展では触れられていないが、かつて日本酒の瓶に貼られていた「酒税証紙」の位置に、本来のラベルとは別の小さめのブランドラベルや酒類、アルコール度数を示すシールが貼られるのもそうした名残のひとつではないだろうか。
印紙・証紙は切手と比較して収集が難しく、コレクターの数は極めて少ないという。政府発行の印紙から都道府県・民間団体の証紙まで、これだけの数のコレクションを見る機会は貴重だ。[新川徳彦]


展示風景

2017/02/14(火)(SYNK)

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