2018年04月15日号
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artscapeレビュー

鈴木ユキオ『イン・ビジブル in・v sible』

2017年04月01日号

会期:2017/03/09~2017/03/10

世田谷美術館エントランス・ホール[東京都]

「影」をめぐる上演だった。世田谷美術館のエントランス・ホール。大理石でできた天井高の世界。巨大な果物や植物をかたどったような黒いオブジェ(いしわためぐみ)が置かれたステージ空間に、黒い服を着た鈴木ユキオが登場すると、オブジェを一つひとつ確認するように置き直した。次には、映像(みかなぎともこ)が映写され、ゴルフのピンみたいなものを吊ったモビールが壁を彩るなか、鈴木は踊った。黒いオブジェも、映像も、影だ。そのなかで鈴木の身体は紛れもなく重さを持つ実体なのだ、と思いたいのだが、彼もまた、動いているようで動かされているような、曖昧な存在に見える。鈴木のダンスは完成度が高まっているように見えた。形を作るベクトルと形を壊すベクトルが拮抗し合いつつズレる。そのズレがおのずと運動になっているような、その出来事以外の何も挟まないというような、動きの純度が非常に高い。切断はない。ただ、つねに運動に小さな切り込みが施され、連続が分断される(身体運動におけるキュビスム?)。そうはいっても、派手な切断があってもいいものだ。と思いだした途端、びっくりするようなことが起きた。ぬすーっと、鈴木の背後の暗がりから、黒いオブジェに似て黒いタイツに身をまとった「ひと」(赤木はるか)が現れたのだ。まさに「影」そのものとなった人間。鈴木がそれでもなお人間の「表」らしさを失わずに踊っていたのに対して、黒タイツは人間の「裏」が表出した不気味な「不在」に見えた。そのあたりでだったろうか、さりげなく、ホールの端にある彫刻たちに照明が当てられた。そうだ、これら美術館の展示物もまた「影」であり「不在」の在だ。そうやって、ぐるぐると不安定な「影」の運動に観客は翻弄された。

2017/03/09(木)(木村覚)

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