2018年07月15日号
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artscapeレビュー

絵本はここから始まった ウォルター・クレインの本の仕事

2017年04月01日号

会期:2017/02/04~2017/03/26

滋賀県立近代美術館[滋賀県]

ウォルター・クレインは19世紀後半の英国で、画家、イラストレーター、デザイナーとして活躍した人物で、なかでも現代の絵本の基礎を築いたことで知られている。本展はそのクレインの仕事を本格的に紹介する日本で初めての展覧会で、絵本と挿絵本を中心におよそ140点の作品が出品されている。会場は、クレインの絵本の展開を年代を追って辿った「第I章 クレインのトイ・ブック」と同時代に絵本で活躍した画家たちの作品やクレインのデザインの仕事を取り上げた「第II章 カラー絵本の仕掛け人エヴァンズとコールデコット、グリーナウェイの絵本と挿絵本」から構成されている。当時の絵本印刷の多くは木口木版のカラー印刷で、絵師と彫版師の共同作業で進められた。エドマンド・エヴァンズはこの時代を代表する彫版師で、クレインの絵本画家としての才能はエヴァンズとの出会いで開花する。二人は1865年から1876年までに37冊の絵本を制作したが、その12年間は新しい技術への挑戦の連続であった。2色から3色、4色、6色と、印刷に使用される色数が増えるに従って、絵本としての表現はより華やかにより洗練されて成熟していく。クレインの絵の特徴は確かな描写力と美しく力強い線の表現にあり、数々の作品からは、その力が彼らの印刷表現の飽くなき挑戦を支えていたことがうかがえる。
さて、同館では昨年の今頃、「ビアズリーと日本」展が開催された。ビアズリーといえば1890年代に英国で活躍した夭折の天才画家だが、彼もまた版画や挿絵という印刷表現の分野で活躍した。耽美的、頽廃的とも言われるその作風はクレインとはまるで対極的で、白と黒の緻密で繊細な描写を特徴としている。明るい力強さと儚げな陰鬱さ、多彩とモノトーン、陽と陰、二人の作品にはヴィクトリア時代の世界観が象徴されているかのようで、一年前のこの展覧会を思い出しながら鑑賞するというのも一興ではないだろうか。[平光睦子]

2017/03/07(火)(SYNK)

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