2024年03月01日号
次回3月18日更新予定

artscapeレビュー

2016年04月01日号のレビュー/プレビュー

プレビュー:KYOTOGRAPHIE 京都国際写真祭2016

会期:2016/04/23~2016/05/22

京都市内の10数カ所[京都府]

2013年から始まった、日本でも数少ない国際写真展。京都市内の歴史的建造物や近現代建築を会場とするのが特徴で、質の高い作品と展示も手伝って、回を追うごとに評価が高まっている。4回目となる今回のテーマは「Circle of Life いのちの環」。サラ・ムーン、ティエリー・ブエット、福島菊次郎、古賀絵里子、銭海峰、アラノ・ラファエル・ミンキネンといった気鋭写真家の個展のほか、ギメ東洋美術館の写真コレクション、コンデナスト社の、ファッション写真コレクション、マグナム・フォトによる難民・移民問題を扱った写真展も行なわれる。また、クリスチャン・サルデ(写真・映像)・高谷史郎(インスタレーション)・坂本龍一(サウンド)の共演も話題を集めるだろう。会場が広範囲に分散しているので全会場を見るのは大変だが、バスやレンタサイクルを活用して賢く会場巡りを行なえば、写真表現と京都の魅力を一度に味わえる稀有な機会となるだろう。
公式サイト:http://www.kyotographie.jp/

2016/03/20(日)(小吹隆文)

プレビュー:福留麻里企画ダンス公演『動きの幽霊』『あさっての東京』

会期:2016/04/08~2016/04/10

STスポット[東京都]

4月は今月のレビューでも取り上げた、福留麻里と神村恵に注目したい。STスポットで福留麻里の新作二本が上演される。『動きの幽霊』は時間がテーマで、過去とは本当に存在しているのか?見ていたものは本当に存在していたのか?と問う。福留本人に本作のことを聞くと、「3.11」以後の自分たちの地盤や自分自身が不確定になってしまったという気持ちが、背景にあるのだという。「自分がなにからできているのか」が知りたくなったというのだ。それでベースが「ラブストーリー」であるというのが謎といえば謎だが、福留曰く「案外ベタで攻めている」とのこと。つまり、スリリングな方法が展開されていつつもポップな作品に仕上がりそうだ。もう一本の『あさっての東京』は、神村との共作。これも時間がテーマで、それはタイムマシンと関連しているらしい。どちらも、今日的なダンスを目にする絶好の機会になるに違いない。

2016/03/21(月)(木村覚)

清川泰次の生活デザイン

会期:2015/12/19~2016/03/21

世田谷美術館分館 清川泰次記念ギャラリー[東京都]

抽象的な表現(彼はそれを「純粋絵画」と呼んでいたようだが)を追求した画家・清川泰次(1919-2000)。1980年代になると、その表現は絵画にとどまらず、立体、生活デザインへと広がったという。清川の自宅兼アトリエを改装したギャラリーで「清川泰次の生活デザイン」と題する展覧会が開催されていたので見に行った。絵画、立体作品に加えて、清川がデザインを手がけたというティーウェア、テーブルウェア、ハンカチーフ、ファブリック類、そして益子焼など手ずから絵を付けた陶器類が展示されている。清川の抽象的な表現はこれらの製品にとても合っていると感じたが、他方でこれらを「デザイン」と呼ぶのかどうか、今回の展示では少々判断つきかねた。それというのも、清川泰次デザインの商品をどのようなメーカーが手がけ、どこで、どのような価格で売ったのか、今回の展示では良くわからなかったからである。器の形も手がけたのか、それとも絵付けだけだったのか。どなたがプロダクト全体をプロデュースしたのか。サインが入っているところをみると、これらはアーティスト・グッズとしてつくられたものではなかったのか。もちろんそうした例は他の美術家にもいくらでもあることである。ただ、「生活デザイン」と銘打つからには、その「生活」が誰のものだったのかが示されていればよかったと思う。[新川徳彦]

2016/03/21(月)(SYNK)

artscapeレビュー /relation/e_00033375.json s 10121351

隅田川をめぐる文化と産業──浮世絵と写真でみる江戸・東京

会期:2016/01/05~2016/03/21

たばこと塩の博物館[東京都]

2015年4月、渋谷の街から墨田区横川に移転した「たばこと塩の博物館」に、遅まきながら初訪問した。真新しい設備、旧館の約2倍という広々とした展示スペースにもかかわらず、入場料は大人100円と据え置き。1階は受付、売店、ワークショップルーム。2階は特別展示室と塩に関する常設展示。3階は煙草に関する常設展示と視聴覚室。旧館から引き継がれた史料、模型やパノラマなどに加えて、映像資料の充実はうれしい。渋谷時代に「公園通り商店」だった煙草屋さんは「業平橋たばこ店」に看板を掛け替えられていた。旧館では中2階、2階にあった煙草の展示が3階に移った理由は、子どもたちが煙草の展示を見なくても済むようにとの配慮らしい。筆者は昨今の喫煙を巡る規制の強化を歓迎する非喫煙者なのだが、他方で煙草に関する文化があまりに急速に変化・喪失しつつある現状に驚いてもいる。煙草に関する歴史展示は概ね1960年代頃までのもののようだが、民営化も含めてこの20~30年程の環境の変化はいずれ常設展示に加えて欲しいと思う。
 リニューアル後2回目になる企画展「隅田川をめぐる文化と産業」は、遊興、娯楽の場として、また物資の輸送路として江戸時代から経済活動の動脈であった隅田川を取り上げている。なかでも大きく取り上げられているのは、行徳(千葉県)の塩。行徳の塩浜は江戸近郊で塩を生産できる場として幕府の保護を受けていた。生産した塩を江戸に運ぶために整備された航路が、中川と隅田川を結ぶ小名木川(慶長年間)と、江戸川と中川を結ぶ新川(寛永年間)。行徳の塩田は昭和初期には終焉を迎えたが、小名木川と新川は第二次世界大戦後まで水上輸送路として大きな役割を果たしたという。そのほかに明治時代の隅田川周辺の近代産業として、新燧社(マッチ製造)、花王石鹸、ライオン歯磨、ミツワ石鹸、大日本麦酒、精工舎、専売局業平分工場が写真、絵葉書などで紹介されている。史料の出所は花王ミュージアム、セイコーミュージアム、すみだ郷土文化資料館などで、近隣の博物館に対する新博物館のご挨拶という趣でもあった。[新川徳彦]

2016/03/21(月)(SYNK)

artscapeレビュー /relation/e_00033641.json s 10121354

MADE IN OCCUPIED JAPAN 1947-1952 海を渡った陶磁器展

会期:2016/03/26~2016/04/17

世田谷文化生活情報センター:生活工房[東京都]

「MADE IN OCCUPIED JAPAN」とは、第二次世界大戦後、連合国軍占領下にあった日本にGHQが輸出商品に付すことを義務づけた製造国表記である。公式には1947(昭和22)年から1949(昭和24)年まで、一部にはサンフランシスコ講和条約が発効する1952(昭和27)年までの商品に用いられた。この表記は同時期の輸出品すべてに付されたので、陶磁器類、カメラ、ミシン、工具類、工芸品、玩具、布製品など、多様な商品が存在する。刻印が施された時期が限られるため、その希少価値から米国やカナダを中心に多くの蒐集家がいる。この展覧会では、オキュパイド・ジャパン商品のなかでも「ノベルティ」と呼ばれている陶磁器の置物約200点が展示されている。展示品は、米国オキュパイド・ジャパンクラブ代表・田中荘子氏のコレクション。田中氏は約1万点のオキュパイド・ジャパン商品を所有し、そのうち8,000点が陶磁器類だという。今回の出展品はよりぬきの200点ということになる。
 展示品は、人形、小型のフラワーポット、塩胡椒入れ、カップ&ソーサー、ままごと用のテーブルウェアなど。人形にはヨーロッパ陶磁のフィギュアや欧米の雑誌等に描かれたキャラクターを写したと思われるものが多い。これらは明らかにアメリカ人の好みだろうと思われるが、なかには日本的な「カワイイ」キャラクターが模られたものもある。こんなに可愛らしいキャラクターの塩胡椒入れが米国人の食卓を飾っていたと考えると奇妙な感じがする。また州の形を模ったフロリダ土産の小皿が「MADE IN OCCUPIED JAPAN」であるのも面白い。当時の観光客はこれらが日本製であることに気がついていたのだろうか。
 これらのノベルティは、米国側の視点では特定の時期につくられたコレクタブルだが、製造国日本から見ると戦前期から戦後1980年代前半ごろまで続いた輸出陶磁器の1ジャンルである。出展品には一部有田のものがあるが、大部分は名古屋・瀬戸周辺でつくられたものだ。現在その生産の大半はアジア諸国に移転し、最盛期には約300社あった瀬戸ノベルティの製造会社は、現在では30社に激減しているという。小規模な業者が多かったとは言え、愛知瀬戸では一大産業であったはずだが、輸出品であったこれらノベルティは国内ではあまり高い評価を受けてこなかった(このあたりは近年見直しが進んでいる明治の輸出工芸と似ている。モノが国内に少ないために評価が進まないのだ)。また、瀬戸ノベルティ文化保存研究会・中村儀朋氏によれば、ノベルティのなかでも「OCCUPIED JAPAN」の刻印は敗戦・占領下の製品というネガティブなイメージが重なり、瀬戸においても触れたがらない人が多いのだという。しかし、アメリカやカナダの蒐集家たちは戦勝国と敗戦国というような関係にはこだわらず、純粋にかわいい、楽しい陶磁器として蒐集しているという。もともとは戦後70年を迎えた昨夏の開催を検討していた展覧会とのこと。すなわち「MADE IN OCCUPIED JAPAN」は平和な時代を迎えることによって生まれた、日本と世界をつなぐ「平和と愛情のシンボル」(田中氏)なのだ。[新川徳彦]


会場風景

関連レビュー

時代が見えてくる──オキュパイドジャパンのおもちゃたち:artscapeレビュー|美術館・アート情報 artscape

2016/03/28(月)(SYNK)

artscapeレビュー /relation/e_00034654.json s 10121357

2016年04月01日号の
artscapeレビュー

文字の大きさ