artscapeレビュー
高桑常寿「唄者の肖像」
2011年05月15日号
会期:2011/03/31~2011/05/16
キヤノンギャラリーS[東京都]
「唄者(うたしゃ)」とは沖縄、八重山、宮古の島々で「三線を引きながら唄い踊る芸能者」たちのこと。高桑常寿は1998年から彼らのポートレートを4×5インチの大判カメラで撮影してきた。今回のキヤノンギャラリーSでの個展では、登川誠仁、大城美佐子、照屋林助(2005年逝去)らの長老格から、若手のミュージシャンまで110余名を撮影したなかから、60点の作品がB0サイズに大きく引き伸ばされて展示されていた。
沖縄人は顔、とりわけ眼から発するパワーが強いように思う。その「眼力」をがっしりと受けとめ、正面から投げ返す力業のポートレートが並ぶ。4×5判カメラの克明な描写力は、彼らの姿かたちだけでなく、体全体から放射されるエネルギーを捉えるためにこそ必要だったということだろう。室内よりも、屋外で「太陽の力を借りて」撮影されたポートレートの方に、その生命力の波動がいきいきと刻みつけられているように感じた。こういう展覧会を見ると、ここ数年のデジタル・プリンターの進化に驚いてしまう。4×5インチカメラの大容量のデータをプリントとして定着する技術は、アナログのプリントに匹敵するか、それを超えるところまで達したのではないかと思う。逆に、写真家も言い訳がきかなくなってきているわけで、デジタル・プリントのコントロールは大きな課題になるだろう。
展覧会にあわせて、同名の写真集も東京キララ社(発売:河出書房新社)から刊行された。写真の枚数が2倍近くに増え、「人生を唄と踊りに捧げた」芸能者たちの栄光と哀感が、より細やかに伝わってくる。
2011/04/04(月)(飯沢耕太郎)