artscapeレビュー
大久保潤「ちょっと訪ねたカンボジア」
2011年05月15日号
会期:2011/04/01~2011/04/30
Green Caf[東京都]
珍しい展覧会を見た。大久保潤は1970年生まれ。1997年より横浜市港北区の社会福祉法人かれんに属して、主に絵画作品を発表してきた。ところが彼は写真にも強い興味をもち、18年もの間24枚取りのフィルムを週に1本のペースで撮影し続けてきたという。概算すると900本以上、2万2千カット余りの写真というわけで、この量だけでも尋常ではない。それに加えて彼のスナップ写真はのびやかさと集中力をあわせ持っており、被写体の配置もうまく決まっていてなかなか魅力的だ。普通は知的障害者のアート作品(アウトサイダー・アート、あるいはアール・ブリュット)というと、絵画を思い浮かべることが多いので、写真というのは意外な盲点なのではないだろうか。おそらく、絵画や版画と同じように、写真においても優れた才能を持つ者がたくさんいるはずだ。今回の展示を見てそんなふうに強く思った。
今回は1998年に家族とともに訪れたカンボジアへの旅を題材としている。写真の特徴としては、自分の反射像や影を取り込んだ作品が多いこと、被写体を画面全体にバランスよく散りばめていること、日付を必ず入れていることなどが挙げられる。ともかく、気持ちのよいエネルギーの波動が伝わってくるチャーミングな写真が多い。今回は14点とやや数が少なかったが、もっとたくさんの写真を一度に展示できるような機会があればとても面白いと思う。ただし、古い写真はネガごと捨てられてしまったそうだ。残っているものだけでも、もっと彼の写真を見てみたいと感じさせる展覧会だった。
2011/04/06(水)(飯沢耕太郎)