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超絶技巧!明治工芸の粋──村田コレクション一挙公開

2014年05月01日号

会期:2014/04/19~2014/07/13

三井記念美術館[東京都]

清水三年坂美術館館長・村田理如氏が四半世紀にわたって蒐集してきた1万点に及ぶ明治工芸から、山下裕二・明治学院大学教授の監修のもと、選りすぐりの約160点を展観する企画。蒐集のジャンルは、並河靖之らの七宝、正阿弥勝義らの金工、柴田是真らの漆工、旭玉山・安藤緑山らの牙彫、薩摩焼、刀装具、自在置物、印籠、そして最近入手し日本では初公開となるという刺繍絵画と、多岐にわたる。出品作はいずれも超絶的な技巧で細工、装飾が施されている。技術だけではない。正阿弥勝義の鳥や虫をモチーフにした金工、安藤緑山による本物と見まごうばかりの野菜や果物の牙彫からは、彼らがとても優れた観察力の持ち主であったことがうかがわれる。明治初期にこのように優れた工芸品が現われたのはなぜなのか。技術という点では、大名や武士などの庇護を失った職人たちが腕ひとつで生計を立てなければならなくなったことが挙げられる。そして国内の主要な顧客が失われたものの、明治政府の殖産興業政策によって優れた工芸品は海外の博覧会に出品されて賞を受けるなど、新たな市場と評価のしくみが拓かれたことが職人たちを刺激したのである。このように優れた品がつくられていたにもかかわらず、明治工芸がこれまであまり注目されてこなかったのは、そのほとんどが輸出品で国内に作品が残っておらず、また明治の終わりには工芸品輸出が衰退するとともに技術が失われてしまったからである。近年になってようやく国内蒐集家たちによって「里帰り」した作品を目にする機会が増えてきた。そうした品々のなかでも、村田コレクションは優品中の優品ばかりなのである。翻ってみるに、優品の背後には多数の凡作があった。超絶的な技巧の作品が生まれる一方で、同時代には粗製濫造が問題となっていた。優れた作品をつくりえたのは一部の工芸家たちのみで、それが産業になることはほとんどなかったし、もとよりそれは日本の近代化、工業化の展開とは相容れない技術であった。優れた作品は称揚されるべきだが、歴史を見るうえでは輸出工芸衰退の背景にも目を配る必要があろう。[新川徳彦]

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2014/04/18(金)(SYNK)

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