artscapeレビュー
シャルル・フレジェ「WILDER MANN」
2014年05月15日号
会期:2014/03/15~2014/04/13
MEM[東京都]
「WILDER MANN(ヴィルダーマン)」はドイツ語で、英語では「WILD MAN(ワイルドマン)」、フランス語では「HOMME SAUVAGE(オムソバージュ)」と称する。冬から春にかけて、ヨーロッパ各地の村では死と復活(再生)をテーマとする民間行事が行なわれるが、そこに登場してくる山羊、熊、鹿などの動物を模した仮面、衣裳を身に着けた者たちが「WILDER MANN」なのだ。フランスの写真家、シャルル・フレジェは、2010年頃からオーストリア、イタリア、フランス、ルーマニアなどの、主に山岳地帯にある村々を訪ね、それら「獣人」たちのポートレートを撮影していった。本展は、その成果をまとめた写真集『WILDER MANN──欧州の獣人 仮装する原始の名残』(青幻舎)の刊行を機に開催されたもので、同シリーズから23点の写真が展示された。
「WILDER MANN」の姿はどことなく懐かしい。東北地方や沖縄の民間行事や宗教儀礼に登場する「カミ」や「オニ」たちにそっくりの仮装をしている場合が多いからだ。新国立美術館で開催中の「イメージの力──国立民族学博物館コレクションにさぐる」展を見たときも感じたのだが、文化と自然との境界領域に出現してくる存在を形象化するときの想像力は、世界中どんな場所でも共通しているということだろう。半分動物で半分人間という「WILDER MANN」は、その意味で普遍的なイメージであり、それらがまだヨーロッパでこれだけの生命力を保ち続けているということが、僕にとっては大きな驚きだった。
フレジェはあえて素朴な「記念写真」のスタイルで撮影することで、「WILDER MANN」たちが村の日常的な生活空間に溶け込んでいる様子を示している。その構えたところのないカメラワークが、逆にリアリティを生んでいると思う。
2014/04/01(火)(飯沢耕太郎)