artscapeレビュー
横尾忠則「肖像図鑑 HUMAN ICONS」
2014年07月01日号
会期:2014/06/28~2014/09/23
川崎市市民ミュージアム[神奈川県]
日本近代文学者の肖像画220余点。そしてその制作の契機となった瀬戸内寂聴のエッセイ「奇縁まんだら」(日本経済新聞に2007年から連載)と、「足あと」(東京新聞に2012年から連載)の挿画約200点を中心として、横尾忠則が1960年代から今日までに描いた作品からポートレートに焦点を当てた展覧会。ペン画、アクリル画、油画、版画と、多彩な表現手段と仕事のヴォリュームに圧倒される。展覧会の英文タイトルは「HUMAN ICONS」。すなわち、スター、芸術家、文学者の肖像は現代のわれわれにとっての聖像なのだ。描かれたイメージは基本的に既存の写真をベースとしている。とくに奇縁まんだらや文学者のシリーズには、印刷物などの複製メディアに登場し、多くの人々に知られているイメージが用いられている。だから既視感がある。そこにあるのは、大衆のイメージのリプロダクションである。しかしけっして同じものではない。例えて言うならば、写真のコピーである。写真のコピーは、最初はもとの写真とほとんど変わらないように見えるが、コピーを繰り返していくたびに本来のディテールは消え失せ、その本質のみが残される。すなわち、私たちの抱くイメージと、横尾忠則が描くイメージとのあいだで複製作業が反復され、その過程で生じたズレが私たちに新たなイメージをもたらす。
本展は、横尾忠則現代美術館からの巡回展であるが、川崎市市民ミュージアムの独自企画としてアートギャラリーで「顔」をテーマにしたコレクション展が併催されている。ポスターや雑誌などの印刷メディアや、写真などの複製メディアを中心に、版画、戯画、彫刻、アメリカのコマーシャルフィルムまでを網羅した川崎市市民ミュージアムならではの充実した展示だ。[新川徳彦]
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2014/06/27(金)(SYNK)