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artscapeレビュー

プレビュー:時差『隣り』

2017年07月15日号

会期:2017/08/30~2017/09/03

green & garden[京都府]

「時差」は、特定の演出家や劇作家によるカンパニーではなく、複数のアーティストが同じコンセプトを共有しながら、それぞれの作家による新作公演をプロデュースする企画団体である。京都の若手制作者である長澤慶太によって2016年に立ち上げられた。第1回目の企画「動詞としての時間」では、精神科医の木村敏の著作を読み、「臨床哲学」の言葉を手がかりに、演劇、ダンス、映画作品を制作している。参加アーティストは、和田ながら(演出家)、城間典子(映画監督)、村川拓也(演出家、ドキュメンタリー作家)、岩淵貞太(ダンサー、振付家)であり、京都在住もしくは京都で発表歴のある気鋭のアーティストが名を連ねる。
今回の「動詞としての時間」第2回公演では、城間典子による映画『隣り』が上映される。この作品は、城間の幼馴染であり、統合失調症と診断された女性との共同制作による。映画は2つのパートから構成され、1)幼馴染の女性が、10代の頃、心のバランスを大きく崩した冬から春にかけて、彼女自身が「劇映画」として再現するパートと、2)その4年後に城間が再び彼女を訪ね、現在の様子を撮影したドキュメンタリーから成っている。発病当時、京都造形芸術大学の映画学科に在学中だった城間と、過去に演劇部に所属し、俳優を志していた彼女とのあいだで、1)の劇映画をつくることは自然な成り行きだったという。編集は城間に任されたが、4年かかっても終わらず、再び城間が彼女を訪ねたことを契機に2)が生まれた。そこには、一緒に劇映画の編集作業を行なう二人の様子とともに、通院を続け、絵を描きながら家族とともに暮らす彼女の日常生活が記録されている。本人の再現による「劇映画」とドキュメンタリーから成る構造は、ドキュメンタリー/フィクションという単純な二元論の解体についての問いを提起する。加えて、親密な関係のなかでカメラを向けるという被写体との距離感、病を抱えて生きることの困難とそこに寄り添って眼差しを向ける営みについてなど、さまざまなトピックを喚起する映画になるのではと期待される。
公式サイト: http://kyotojisa.wixsite.com/jisa

2017/06/30(金)(高嶋慈)

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