artscapeレビュー
寺内曜子
2017年07月15日号
会期:2017/05/15~2017/06/30
慶應義塾大学アート・スペース[東京都]
「スタンディング・ポイント」と題する新シリーズの第1回は、80-90年代にロンドンで彫刻家として活動してきた寺内曜子。彼女の関心は一貫して裏と表、内と外、部分と全体といったもので、それらがときに等価になり、ときに逆転することを作品で示そうとする。例えば、黒い電話ケーブルを切り裂いてカラフルなワイヤーを取り出した《ホットライン113》。電話ケーブルはバネのように渦を巻きながら屹立し、取り出したワイヤーはだらんと地をはっている。黒くて太いチューブに内包された、色とりどりの細いワイヤー。たとえは悪いが、美人の腹を割いたら出てくる内臓を思い出させる。ちなみにタイトルの113は、NTTでは電話の故障の相談窓口の番号。
もうひとつ、《パンゲア》は紙を丸めてボール状にしたもので、表面にところどころ黒い線が見え隠れしている。背後に大きな正方形の紙が貼ってあり、4辺(縁)が黒く塗られている。ボールはこの紙を丸めたものだろう。だとするなら、表面に見え隠れする黒い線は球の内部で1本につながっていることが予想される。このように幾何学的・論理的思考に基づくコンセプチュアルな作品制作は、80年代に台頭した「ニュー・ブリティッシュ・スカルプチュア」にしばしば見られた傾向だ。特筆すべきは、多くのアーティストがその後、作品に社会性を与えたり素材を変えて商品化したりするなかで、彼女はいまだにそれをやり続けていること。まったくブレがない。これは尊敬しちゃう。話は変わるけど、なんでここはかんらん舎のアーティストばっかり扱うの? たしかにかんらん舎はブレないけどね。
2017/06/14(水)(村田真)