artscapeレビュー
第11回 shiseido art egg:吉田志穂展〈写真〉
2017年07月15日号
会期:2017/06/02~2017/06/25
資生堂ギャラリー[東京都]
新進アーティストに展示の機会を与える「シセイドウアートエッグ」の企画では、ほぼ毎回、写真を使う作家が選出されている。今回は2014年の第11回1_WALL展でグランプリを受賞した吉田志穂が、新作を含む作品を発表した(審査員は岩渕貞哉、中村竜治、宮永愛子)。
吉田は撮影場所をあらかじめ画像検索し、地図や航空写真などで確認したうえで決定する。実際にその場所で撮影された写真をプリントに焼き付け、すでに持っていた視覚情報や実際に見た風景と比較しながら、「理想的なイメージと目の前の風景を組み合わせる」ことを目指していく。実際には、引伸ばし機の投影像の複写、画像を取り込んだパソコンのモニターの複写などを繰り返し行なうことで、現実とも非現実とも見分けがつきがたい、曖昧だが奇妙にリアルなイメージが生み出されてくる。「測量|山」のシリーズでは、それらを大小のプリントに焼き付けて壁面、床などに展示したり、スライド映写機で投影したりして、会場を構成していた。
このようなデジタル画像とアナログ画像の変換・操作を積み重ねることで「新しい風景」を創出していくような志向性は、もはやありがちなものになってきている。吉田の場合も、それほど新鮮な印象は与えられなかった。だが、新作の《砂の下の鯨》には、違った方向へと出ていこうという意欲を感じた。こちらは「鯨が座礁し、それを骨格標本にするために一時的にその囲いの中に埋められている」という場所を撮影した写真を下敷きにして、インスタレーションを試みている。手法的には前作と同じなのだが、「鯨の腹部の模様」を思わせる砂紋を強調することで、観客のイマジネーションをより強く喚起する物語性が組み込まれた。この方向性をさらに進めていくことで、独自の「語り口」を見出していくことができるのではないだろうか。
2017/06/05(月)(飯沢耕太郎)