artscapeレビュー
莫毅「研究ー紅1982-2017」
2017年07月15日号
会期:2017/06/23~2017/07/19
Zen Foto Gallery[東京都]
中国を代表する現代写真家、莫毅(モウ・イ)の作品を、Zen Foto Galleryで展示する連続企画展も4回目になる。今回は「紅(赤)」という色をテーマにした彼の作品を集成した。莫毅は中国ではごく普通に見ることができる「紅」という色にずっとこだわり続けてきた。いわゆる「チャイニーズ・レッド」は中国共産党のシンボルカラーであるだけでなく、お祝い事などに使われるおめでたい色でもある。今回の展示では、「赤い風景」(1997)、「赤い電柱」(同)、「赤いフラッシュ-私は一匹の犬」(2003)、「崇子の赤いスカート──北京を歩く」(2004)、「赤い閃光のロリアン──ドイツ軍基地とスペイン要塞」(2007)の5シリーズのほかに、彼が日常的に撮り続けてきた赤い事物(布団、プラスチック製品、看板、ポスターなど)や、インターネットから取り込んだ歴史的事件の画像などが、壁一面に貼り巡らされていた。
今回の「紅」シリーズのアプローチは、批評的、政治的でありながら、とても軽やかであり、莫毅のほかの作品の、身体性にこだわった重々しい雰囲気とはかなり印象が違う。同時に「紅衛兵が皆つけていた赤い袖章、入団宣誓の時に面と向かった党の旗、リーダーが亡くなった時に死体にかぶせた赤い布、今日まで街から消えることのない赤い宣伝横断幕」といった彼の記憶のなかの「紅」のイメージが、写真によって呼び起こされている。苦難の時代を真摯に生き抜いてきた中国人のアーティストの生涯を、「紅」のイメージをつなぎ合わせて辿り直すことができる、とても興味深い作品群だった。いつも同じことを感じるのだが、もっと大きな空間で、彼の多彩な作品群を一堂に会して見てみたい。そろそろ、どこかの美術館が中国現代写真家たちの個展、あるいはグループ展を本気で企画すべきではないだろうか。
2017/06/29(木)(飯沢耕太郎)