artscapeレビュー
宇井眞紀子「アイヌ、100人のいま」
2017年07月15日号
会期:2017/06/08~2017/06/14
キヤノンギャラリー銀座[東京都]
宇井眞紀子は1992年、偶然のきっかけから北海道・二風谷で仲間たちと共同生活をするアイヌ女性、アシリ・レラさんと知り合い、「子連れで」彼らの写真を撮影し始めた。それから20年以上かけて、アイヌ民族の人たちと付き合い、『アイヌときどき日本人』(社会評論社、2009)、『アイヌ、風の肖像』(新泉社、2011)などの写真集を刊行してきた。今回、キヤノンギャラリー銀座で開催された個展「アイヌ、100人のいま」の写真群も、2009年から撮り続けたという労作である。北海道だけでなく、関東周辺から九州までも足を伸ばし、丁寧にコミュニケーションをとりながらポートレートの撮影を続けている。クラウドファンディングによる出版の企画も同時に進められ、冬青社から同名の写真集が刊行された。
宇井の写真撮影は「どこで撮影したいか考えてください。服装も撮られたい服装でお願いします」と告げるところから始まるのだという。つまり、どのような写真になるのかという選択は、モデルとなる人たちにほぼ委ねられている。結果として、並んでいる写真はかなりバラバラな印象を与えるものになった。その「自然体」の雰囲気が、逆に今回の撮影プロジェクトにはふさわしいものだったのではないだろうか。同じアイヌ民族の血を引く人々といっても、彼らを取り巻く環境も、彼ら自身の「アイヌであること」へのこだわりも、大きく引き裂かれており、むしろその多様性こそが「アイヌ、100人のいま」の根幹であると思えるからだ。全体的にポジティブな、明るいトーンでまとめられた写真群には、「今一番言いたい事」というそれぞれのメッセージが添えられていた。それらもまた多種多様であり、写真と言葉とが絡み合いながら「100の物語」を織り上げている。アイヌの人たちを鏡にして、日本人のあり方を浮かび上がらせる、志の高さを感じさせるドキュメンタリーである。なお、展覧会は、キヤノンギャラリー大阪(7月13日~7月19日)、キヤノンギャラリー札幌(7月27日~8月9日)に巡回する。
2017/06/13(火)(飯沢耕太郎)