artscapeレビュー

菅俊一展 正しくは、想像するしかない。

2019年04月01日号

会期:2019/03/20~2019/04/15

松屋銀座7階デザインギャラリー1953[東京都]

例えば2つの点が左右に並んでいて、その真下に1つの点があるだけで、人の顔に見えるという現象がある。壁や天井に付いた模様やシミを眺めて、人の顔を想像したという経験はないだろうか。本展は、そんなふうに人が根本的に持つ想像力を試す実験のような内容だった。実験されるのは、鑑賞者だ。「ここに並んでいるのは手がかりだけです。正しいイメージは、鑑賞しているみなさんの頭の中にしかないのです。」というメッセージが、まさに本展の主旨を物語っている。

「1. 透明の発生」では、透過の感覚をつくり出す試みとして、さまざまな線の質感や表現方法が紹介される。4つのディスプレイに、斜めに傾いた正方形が、大きな長方形の中を通過していく様子が映る。その通過の過程で、正方形の輪郭が長い点線や短い点線、二重線であったり、四つ角の点しかなかったり、黒く塗りつぶされていたり、または何も映らないだけで、透過の感覚がそれぞれ微妙に異なって見える。いや、目に見えるのはあくまでも点や線でしかないため、心の中での想像が微妙に異なるというわけである。


展示風景 松屋銀座7階デザインギャラリー1953
[撮影:ナカサアンドパートナーズ]

「2. 乗り越える視線」は、「視線」の実験だ。これはやられた、という感じである。まず正面のディスプレイに映っている、四角と線だけで描かれた単純な顔を見ると、黒目がある方向を向いている。その視線の方向を辿ると、その先の壁には同じ単純な顔があり、また黒目がある方向を向いている。その視線の方向を辿ると……ということを繰り返していくと、気がつけばあちこちを向かされ、最終的に元のディスプレイに戻ってくるという仕組みだった。これは視線同士をつないで、空間に見えない線を描く試みだそうだ。


展示風景 松屋銀座7階デザインギャラリー1953
[撮影:ナカサアンドパートナーズ]

「3. その後を、想像する」では、ディスプレイ映像と、本を模した板の図版とで、日常的な行為の続きを想像させる試みが行なわれる。例えば、トングで掴んだ角砂糖をカップに入れようとする。映像や絵はそこでストップし、その後どうなるのかは、鑑賞者の想像に委ねられる。液体がカップの外にまでポチャンと飛び跳ねるのか、液体の水面が少しだけ揺れ動くのか、その想像は鑑賞者自身の経験値によって変わる。いわば想像力が働くことで、人は日常生活のなかで危険回避ができるというわけだ。これら3つの展示を通して、限られた視覚情報であっても、想像力でさまざまな情報を補うことができる人の知能の偉大さを、改めて教えられた。


展示風景 松屋銀座7階デザインギャラリー1953
[撮影:ナカサアンドパートナーズ]


2019/03/23(土)(杉江あこ)

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