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VOCA展2019 現代美術の展望─新しい平面の作家たち

2019年04月01日号

会期:2019/03/14~2019/03/30

上野の森美術館[東京都]

「絵画や写真など平面美術の領域で高い将来性のある40才以下の作家を奨励する」という目的で、全国の美術館学芸員、研究者、ジャーナリストなどが推薦したアーティストの作品を展示する「VOCA展」も、今回で26回目を迎えた。数年ぶりに会場に足を運んだのだが、写真・映像作品が多くなっていることにあらためて驚かされた。33名(組)の出品者のうち、じつに9名が写真を使っている。

とはいえ、「岩肌を撮影した写真を破いて貼り合わせ、ハンドスキャナーでスキャン」する滝沢広、「モノ自体に輪郭線を引いて」撮影する石場文子、高速道路での「小さな生物との衝突跡を望遠レンズと顕微鏡の対物レンズで接写」する岡本高幸、「自らの写真をコラージュ」して「現代のバベルの塔」のイメージを構築するクスミエリカなど、写真の使用法はじつに多様で、作品の見かけにもかなりの幅がある。写真撮影やプリントを制作のプロセスに取り込むことが、もはや現代美術家にとってごく当たり前な、自然体で実行できる行為になっていることがよくわかった。

特に注目したのは喜多村みかの《TOPOS》(大原美術館賞)と新井卓の《第五福竜丸〈乗組員の布団〉のモニュメンツ》である。喜多村は自宅と思しき室内の空間のモニターに映る画像を、時間を変えて定点観測的に撮影した2枚の写真を提示した。少女と群衆が映る画像の意味・内容は特定できないが、私的な空間に社会性を帯びたイメージが暴力的に侵入してくる状況が、的確なフレーミングと明暗処理で定着されていた。新井卓は第五福竜丸展示館の収蔵資料である「乗組員の布団」を280枚に分割撮影したダゲレオタイプ作品、乗組員だった大石又七氏が布団に寝た痕跡を定着したインスタレーション、大石氏へのインタビュー映像を組み合わせて展示している。ダゲレオタイプという古典技法へのこだわりを維持しながら、さらに表現の幅を拡張していこうとする意欲的な姿勢に共感を覚えた。

2019/03/18(月)(飯沢耕太郎)

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