artscapeレビュー
パラサイト 半地下の家族
2020年02月15日号
飛行機の中でポン・ジュノ監督の映画『パラサイト』を鑑賞した。もっとも、後から映画のスクリーンに合わせて、美術監督が豪邸の空間を設計したことを知り、映画館でも見たくなった。途中から出てくる、異様な地下空間はさすがにセットだと思っていたが、どうやら地上部分もセットだったらしい。ちなみに、シャンデリアなどのアイテムによって豪華さを示すのではなく、建築雑誌に登場するような大きなガラス張りのリビングなど、モダンなデザインによって高級さが演出されている。韓国映画やドラマは、冬ソナ・シリーズをはじめとして、『私の頭の中の消しゴム』 、『イルマーレ』 、『建築学概論』など、しばしば建築や建築家が重要な役割を占めているが、本作ももうひとつの主役は、金持ちの住宅と貧乏人の半地下の住処ということになるだろう。前者はそれぞれが個室に分かれ、家族はバラバラであるのに対し、後者はほとんどプライバシーを獲得することができないものの、助けあう家族のイメージを空間で体現している。
興味深いのは、お手伝いというポジションが重要な位置づけになっていることだ。なるほど、その家の施主でもないし、家族の一員でもない他者でありながら、もっとも密接に住宅に関わる職業である。そして日中、家族が外に出かけているときも、家で作業をしている。実際、『パラサイト』において、家政婦は建築家が設計した住宅の秘密を知っており、その家の特殊ルールを決めたり、家族に大きな影響を与えるなどして、住宅という空間を影で支配していた。レム・コールハースが設計したボルドーの家を題材としたドキュメンタリー映画『コールハウス・ハウスライフ』でも、もはや住人が暮らしていないために、家政婦が主役だった。亡くなった主人の思い出を語る墓守のようでもあり、常に掃除という行為を通じて、住宅のあらゆる表面を触っている。特に空間の特徴に対して定型化された所作は、ほとんどコレオグラフィーに近い。こうした家政婦の重要性も、豪邸ならではかもしれない(ドラマ「家政婦は見た!」を想起せよ)。それにしても、『パラサイト』の終盤の激しい展開は予想できない。ここで抑圧された階級差や、隠された空間の分節が突如むきだしとなり、凄まじいカタルシスを迎える。
2020/01/04(土)(五十嵐太郎)