artscapeレビュー
東京 2020 公式アートポスター展
2020年02月15日号
会期:2020/01/07~2020/02/16
東京都現代美術館 エントランスホール[東京都]
いよいよオリンピックイヤーを迎えた2020年1月7日に、東京2020公式アートポスターがお披露目された。振り返れば、東京2020オリンピック・パラリンピックのデザイン関連事業に関しては受難続きだった。最初に決まったエンブレムが発表後まもなく盗用疑惑をかけられ、国民の間で賛否両論に。あまりの加熱ぶりから次第にデザイナーの佐野研二郎自身へのバッシングに変わり、TVやインターネットを中心にさまざまな疑惑が渦巻いた。結果、あえなく取り下げが決まり、国民の間ではデザイン業界への不信感が残った。同時に新国立競技場のザハ・ハディドによる設計案が白紙撤回され、再コンペが決定されるなど、まさにすったもんだである。いずれも私のなかではまだ記憶に新しい出来事として残っているのだが、あれからもう5年近くが経ったとは。
もしかして皆が忘れかけている出来事を蒸し返すようなことを述べてしまったかもしれない。しかし本展で発表された東京2020公式アートポスター20作品を観て、やはり思い出さないわけにはいかないのだ。まず疑問に思ったのは、そもそも20作品も必要なのかという点だ。確かに歴代のオリンピックにおいても複数名のデザイナーや画家による複数点のポスターが発表されてきたようだが、それにしても20作品もあっただろうか(もしあったとしたら私の認識不足である)。例えば1964年東京大会であれば、かの有名な亀倉雄策による赤い円が大きく描かれたポスターや、陸上競技選手たちのスタートダッシュの瞬間を切り取ったポスターなど、「顔」となるポスターが必ず思い浮かぶ。それは作品点数が少ないほど的が絞られ、世間に与えるインパクトが大きくなるからだ。
その点で、東京2020公式アートポスターはいったいどれが「顔」となるのか。いや、あえて言うなら、どれか1作品が「顔」となることを避けたのではないか。それはリスクを分散するためにである。また最初のエンブレムを取り下げてから、世間の風潮は変わった。デザイン業界での内輪決めではなく、国民皆で平等に、民主主義的に決めることを重視し始めたのだ。東京2020公式アートポスターにもその傾向が現われていた。言わば日本を代表するグラフィックデザイナーは佐藤卓のみで、ほかに若手2組のグラフィックデザイナーがいるが、あとはエンブレムを手がけた野老朝雄をはじめ、画家やアーティスト、写真家、書家、漫画家と実にバラエティあふれる19組が手がけていたからだ。漫画家の浦沢直樹が手がけたポスターは、本当に漫画の1ページである。これから何十年か経ち、東京2020オリンピック・パラリンピックを振り返ったときに、どのポスターが思い返されるのだろう。そんなことを思いながら20作品を眺めた。
公式サイト:https://tokyo2020.org/jp/games/artposter/
2020/02/06(木)(杉江あこ)