artscapeレビュー
20世紀のポスター[図像と文字の風景]─ビジュアルコミュニケーションは可能か?
2020年02月15日号
会期:2021/01/30~2021/04/11
東京都庭園美術館[東京都]
グラフィックデザインの基礎を改めて学ぶという点で、本展はとても見応えがあった。本展タイトルの「20世紀のポスター」とは、1920年代にロシアをはじめヨーロッパに登場した構成主義に基づく「構成的ポスター」のことである。四角形や三角形、円形などの幾何学的形態もしくは写真とサンセリフ書体とを、ミニマルかつ抽象的に構成したその表現様式は、モダンデザインの出発点と言える。いま見ると、クラシック・モダンとも言うべきスタイルに映るが、しかし何とも言えない力強さを感じた。1920年代は当然、コンピューターのない時代である。印刷の活字はあったが、まだレタリング(手書き)も多かった。その手の力が生み出した凄みなのか。もしくはミニマルゆえの率直さなのか。そして要素が図像と文字のみに限られているため、かえってレイアウトの自由度が高いのである。その点が非常に新鮮に感じられ、観ていて心が躍った。これぞグラフィックデザインの基礎と感じた所以である。グラフィックデザインを学ぶ学生にはぜひ観てほしいと思った。
さて、構成主義のなかでも1940〜60年代にスイスで隆盛した様式は「スイス・スタイル(スイス派)」と呼ばれている。本展のPART1では主にこの様式が紹介される。スイスはご存知のとおり、19世紀初頭から続く世界最古の永世中立国だ。この時代に勃発した第二次世界大戦時、ほかのヨーロッパ諸国は政治的プロパガンダが色濃いメディアを世の中に大量に発行せざるを得なかったが、スイスは違った。むしろそれに対立するようにスイス・スタイルは誕生したという解説に、なるほどと膝を打った。スイス・スタイルのポスターに具体的なモチーフはなく、扇情的なコピーもない。音楽会のポスターであれば、イベントタイトル、開催日時、場所といった基本情報だけが並ぶ。情報伝達の仕方が簡潔かつ客観的で、送り手と受け手の間はあくまでも対等な関係なのである。メディアの純粋性や自立性を重視する姿勢が、こうしたスイス・スタイルを築いたという。また、いまも人気のユニバースやヘルベチカなどスイス生まれのサンセリフ書体は、可読性や客観性、普遍性に優れる名書体だ。スイス・スタイルのなかでもこれらの使用頻度が高いというのは頷けた。現代に生きる私たちはこれらのサンセリフ書体を通じて、スイス・スタイルとつながりを持ち続けている。
公式サイト:https://www.teien-art-museum.ne.jp/exhibition/210130-0411_ConstructivePostersOfThe20th.html
2021/02/04(木)(杉江あこ)