artscapeレビュー
建築から金沢とパリを考える
2020年02月15日号
会期:2020/01/25
しいのき迎賓館[石川県]
しいのき迎賓館で開催された金沢日仏協会の45周年記念事業金沢市民フォーラム「金沢・石川のフランス文化祭発見」の基調講演「建築から金沢とパリを考える」を行ない、その後、フランソワーズ・モレシャンらとの討議にも参加した。
もともと依頼されたのは、金沢とフランスの建築で共通点を見つけて欲しいという難易度が高いテーマだったが(そもそも建築の歴史や街並みが全然違う)、逆に言えば、普段は考えないことであり、一種の頭の体操になる。そこでかなり無理をしたものも含むが、五つのカテゴリーから両者の類似性を考察した。
第一に「純粋幾何学」である。すなわち、フランス18世紀のエティエンヌ・ルイ・ブーレーやロード・ニコラ・ルドゥーが構想した純粋な球体建築と、《金沢21世紀美術館》の明快な円形プランだ(ちなみに、設計者による「まる」というオブジェも10周年でつくられた)。もっとも、前者がシンボリックな表現であるのに対し、後者は脱中心性に向かう。なお、《金沢海みらい図書館》は、大きなキューブである。
フランスとのつながりで言えば、SANAAは《ルーブル・ランス》を手がけ、《石川厚生年金会館》 (1977)を設計した黒川紀章は、《ポンピドゥ・センター》のコンペで惜しくも2位だった。もし彼が勝利していたら、同年にパリと金沢で彼の作品がオープンしていた。
第二に「文章を書く建築家」として、いずれも名文で知られるル・コルビュジエと金沢出身の谷口吉郎である。なお、後者の日記を読むと、パリでモネの絵を鑑賞し、日本画や《修学院離宮》との類似性も考察していた。
第三に「様式の伝搬」であるが、金沢にはアール・ヌーヴォーをいち早く導入した武田五一の《石黒ビル》があり、元県庁舎の《しいのき迎賓館》はアール・デコの影響が認められる。また金沢駅鼓門は、いわば凱旋門のタイポロジーを日本化したものだろう。
第四は「フランス留学組」。《旧第四高等中学校本館》を設計した山口半六は、1870年代にフランスで学んでいる。彼が手がけた《兵庫県庁舎》はマンサード屋根をもち、はっきりとフランスの影響が認められる。ほかに金沢で町家のフィールドワークを実施した塚本由晴と、金沢都市再編計画2014を提案したり、金沢で歴史的空間再編コンペを企画している松田逹が、やはりフランスに留学していた。
そして第五に「歴史が重層する都市」。金沢は日本ではめずらしく、古い建築から現代の建築まで、さまざまな時代の建築が共存している都市だろう。また昨年、公共施設としては日本初の建築ミュージアムを創設した(谷口吉郎・吉生記念 金沢建築館)。パリは建築・文化財博物館を備え、まさに歴史が重層する都市でもある。まさに両者にとって一番大事なのは、このポイントではないかと思う。
2020/01/25(土)(五十嵐太郎)