2021年09月15日号
次回10月1日更新予定

artscapeレビュー

鶴巻育子「夢」

2021年06月01日号

会期:2021/03/23~2021/04/11

Jam Photo Gallery[東京都]

Jam Photo Galleryは、目黒通りの目黒川近くに2019年にオープンしたギャラリーである。これまで足を運んだことがなかったのだが、個展を開催するにはちょうどいい大きさの居心地のいい空間だった。近くにはコミュニケーションギャラリーふげん社があり、やや離れてはいるが、POETIC SCAPEも歩いて行けない距離ではない。隣駅の恵比寿には東京都写真美術館もあり、目黒から恵比寿にかけての地域は密度の濃い写真環境になりつつある。

そのJam Photo Galleryでは、主宰者でもある鶴巻育子の展覧会が開催されていた。作品をきちんと見るのは初めてだが、とてもいいスナップシューターである。観察力と認識力と表現力がバランスよく備わっていて、切りとられた場面に明確な発語感(肉声)が感じられる。今回はあたかも夢の中を彷徨っているような「現実感の喪失」、「離人感」を、写真撮影を通じて探っているのだが、その狙いがうまく形にできていた。展示に合わせて刊行された『夢』(Jam books、2020)も、写真の並び、レイアウト、印刷に気を配って、クオリティの高い写真集に仕上がっている。ただ、黒白写真でいいかどうかには疑問が残る。鶴巻はこれまで『THE BUS』(Jam books、2018)、『back to square one』(Jam Books、2019)、『PERFECT DAY』(冬青社、2020)の3冊の写真集を、すべてカラー写真で刊行していている。そのヴィヴィッドな色彩感覚には見るべきものがあり、いきいきとした臨場感を感じさせた。モノクロームだと、古典的な「いい写真」の範疇にすんなりおさまってしまうのが逆にもったいない。また、いわゆる「心象風景」に傾きがちな写真が増えて、写真の世界を内向きに狭めているのも気になる。ただ、今回のような試みがまったく無駄であるとは思えない。むしろ、新たな方向に踏み出そうとする意欲のあらわれと見ることもできる。試行錯誤を経て、さらに大きな世界に出ていくことができるのではないだろうか。

2021/03/28(日)(飯沢耕太郎)

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