artscapeレビュー
クロダミサト「裸婦明媚」
2021年06月01日号
会期:2021/03/19~2021/04/04
2010年代以降、ヌードをテーマにした写真展や写真集の数はかなり減ってきている。男性の性的な欲求に応えるような写真が、フェミニズムの観点から批判されるようになっただけでなく、ネット上で裸の写真が流通することの危険性に敏感にならざるを得ない状況だからだろう。とはいえ、ヌード写真がタブー視されることには問題があると思う。裸体はとても魅力的で、さまざまな可能性を孕んだ被写体であり続けているからだ。クロダミサトが2017年から開始したプロジェクト「裸婦明媚」の写真を集成した今回の展示を見て、そのことを強く感じた。
「裸婦明媚」は、ユニークなやり方で制作されてきた。SNSでモデルを募集し、クロダが今回の展覧会の会場でもある神保町画廊のスペースで、スマートフォンを使ってヌードを撮影する。それらはアプリで加工され、10cmの正方形にプリントされて、その日のうちにギャラリーの壁面に展示されていく。これまで、2017-2019年の間に行なわれた3回のセッションで60人余りの女性モデルを撮影してきた。今回の展示に合わせて、神保町画廊から刊行された同名の写真集には、3人のモデルと、クロダとの対話がおさめられているのだが、彼女たちは異口同音に「女性に撮られて安心できた」、「緊張感がなかった」、「自分を認めてもらえる、受け止めてもらえる感じがした」、と語っている。たしかに、男性写真家のヌードとは一味違う、肯定的で、開放的な気分がこのシリーズの持ち味といえるだろう。さまざまな身体のあり方を、ストレートに選り好みすることなく受け止めていこうとする姿勢が、写真家にもモデルにも共有されている。
今回の展示では、写真が以前の展示よりやや大きめ(12.5×12.5cm)にプリントされていた。あまり大きすぎると威圧的になってしまうし、小さいとモデルの周囲の空気感が伝わらなくなる。今回のサイズが、このシリーズにちょうどいい大きさだと思う。
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2021/04/02(金)(飯沢耕太郎)