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菱田雄介『2011年123月 3・11 瓦礫の中の闘い』

2021年06月01日号

発行所:彩流社

発行日:2021/03/15

「3・11」から10年ということで、その関連出版物が何冊も出ている。本書は、そのなかでも特に、コンセプト、内容ともにしっかりと組み上げられている。

菱田雄介はテレビ局の報道番組のディレクターを務めながら、東日本大震災の直後から被災地の取材・撮影を続けてきた。本業の報道番組を制作するためだけでなく、個人的にも休暇を取って撮影していた。特に宮城県石巻市門脇地区で、行方不明になった近親者を捜す「瓦礫の中の闘い」を続けていた何組かの家族は、その後も何度も現地を訪ねて取材を重ねていった。一回限りで終わらせるのではなく、むしろ事後の状況を粘り強くフォローしていくことは、現代のフォト・ジャーナリズムにおいて最も大事なことのひとつだが、その地道な作業の積み重ねが、本書に厚みと奥行きをもたらしている。

もうひとつ重要なのは、写真図版のページとテキストのページが、ほぼ半々という構成になっていることだ。写真はたしかに強いインパクトを与えるが、そのバックグラウンドを知らないと、表層的な視覚情報を消化しただけで終わってしまう。かといって文章だけでは、その場所で何が起こっていたのかというリアルな臨場感が伝わりにくい。写真とテキストとのバランスをどう取り、どの位置に、どれだけの量の写真と言葉を配置するのかというのは大きな問題だが、本書ではそれがとてもうまくいっていた。読者はまず、日付と場所のみを記した写真と対面し、そのあとでその背景を詳しく記した文章を読むことで、あらためてそれぞれの場面の意味を理解することができるようになる。

タイトルにも使われた、2011年12月が過ぎた後も、そのまま月を加算していく(2021年3月は「2011年123月」)という発想も、震災の記憶の風化をなんとか食い止めようという菱田の思いの表われといえるだろう。細部までよく練り上げられた一冊である。

2021/04/10(土)(飯沢耕太郎)

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