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国宝 鳥獣戯画のすべて

2021年06月01日号

会期:2021/04/13~2021/05/30

東京国立博物館 平成館[東京都]

また鳥獣戯画? つい最近やったような気がするなあ、と思って調べたら、6年前に東博で「鳥獣戯画─京都 高山寺の至宝─」をやってました。6年前をつい最近と感じるのはそれだけ年取ったせいかもしれないけど、それを差し引いても展覧会のサイクルが速まっていないか。ありがたみが薄まるから、鳥獣戯画みたいな国宝のご開帳は10年に一度くらいがいい。しかし何年に一度でも、ただご開帳するだけでは代わり映えしないから、毎回「初の」企画を用意しなければならない。今回の「史上初」の試みは「全4巻・全場面」の一挙公開だ。6年前も甲、乙、丙、丁からなる全4巻を展示したが、会期を前後に分け、前期を各巻の前半、後期を後半部分の公開としたため、一度にすべてを見ることができなかった。まあそれだけ大切に扱われてきたというか、もったいぶって見せなかったのか。

もうひとつ、今回の特筆すべき試みとして、史上初ではないだろうけど、一番人気の甲巻の前に「動く歩道」をつけたことも挙げなければならない。こいつぁー年寄りにはありがたい、って話じゃなくて、展覧会に動く歩道ってのはないでしょ? もちろん高齢者や身障者への配慮もあるだろうけど、端的にいえばコロナ対策で、渋滞せずに先に進んでもらうための方策にほかならない。要するにベルトコンベアに乗せて運べば効率的ってわけだ。ぼくも乗ってみたけど、思ったよりゆっくりなので一瞬「これはいいかも」と思いかけたが、やはり同じ速度で絵が通り過ぎていくのをただ眺めているだけというのは抵抗があるし、だんだん腹が立ってきた。

よくいわれるように、絵巻はアニメの源流のひとつであり、時間軸に沿って物語の展開を追っていく形式だから、動く歩道も実験的な試みとしてはおもしろいと思うが、展覧会でそれをやっちゃあおしまいよ。密かに恐れるのは、この「動く歩道」がコロナをきっかけに次々と導入され、日時指定の予約制みたいに定着してしまわないかということだ。もちろん設置にテマもカネもかかるのでよほどの大型美術展でなければ導入できないだろうけど、逆に10年後、大型展では最初から最後まで動く歩道に乗ってみるのが当たり前の風景になっていやしないか、心配だ。ぼくの考える美術鑑賞の利点は、映画、演劇、音楽に比べて時間に縛られずに自由に見られること。いつ行っても、何時間でも鑑賞できること。それを縛るような日時指定制や動く歩道には強く反対したい。

と、動く歩道に紙幅を費やしたが、展覧会は会期前半に緊急事態宣言により閉じてしまった。公開されたのは内覧会も含めてわずか10日あまり。ゴールデンウィークの人出を見込んでいたのに、その前に休館を余儀なくされるとは! 会期は6月20日まで延長を予定しているものの、緊急事態宣言も6月以降の延長が検討されているというから、再開はビミョー。ようやく全巻・全場面の一挙公開が実現し、動く歩道まで設置したというのに……関係者の心中はいかほどか。

2021/04/12(月)(村田真)

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