2021年09月15日号
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artscapeレビュー

ピピロッティ・リスト:Your Eye Is My Island ─あなたの眼はわたしの島─

2021年06月01日号

会期:2021/04/06~2021/06/20(会期延長)

京都国立近代美術館[京都府]

夏に水戸芸術館にも巡回するが、京都市美の「平成美術」のついでに見た。インスタレーションだから会場によって作品の見せ方が異なるはずだし、なにより美術館が向い側だし。これは好都合。

ふつう国際展では何百点もの作品を一気に見るので、数年も経てば大半を忘れてしまうものだが、いい悪い、好き嫌いに関係なく、妙に記憶に残る作品というのがある。経験的にいうと、そのアーティストはその後たいてい世界的に活躍するようになる。1997年のヴェネツィア・ビエンナーレで見たピピロッティ・リストがそうだった。若い女性が楽しそうに、路上に止めてある自動車の窓を叩き割っていくというマルチスクリーンの映像作品で、衝撃的な内容とは裏腹の軽快な音楽、鮮やかな色彩、スローモーションの上映に、どう反応していいのかわからない不思議な感覚に襲われ、「ピピロッティ」という軽やかな名前とともに深く記憶に刻まれたのだ。ちなみに、彼女の本名はシャルロッテ(ロッティ)だそうで、『長くつ下のピッピ』から拝借した「ピピロッティ」という愛称を、そのままアーティスト名にしたという。

展示会場へは靴を脱いで上がる。他人の家にお邪魔するみたいな親密感とワクワク感がある。口の字型の暗い会場をぐるりと回りながら(前半は迷宮巡りのよう)、映像インスタレーションを見ていく、いや体験していく仕組み。ソファやベッドが置かれているところもあり、みんなくつろいで鑑賞している。彼女の作品は、華やかな色彩や軽快なサウンドもさることながら(内容はジェンダーや身体、自然など必ずしも軽いものではない)、映像が垂直の壁面だけでなく、天井や床、家具や食卓、衣類や陶器などあらゆる場所に投影されるため、見る側の視点が固定されず、観客に気ままにくつろいで見ることを要求するのだ。昔「ヴィデオ・アート」と呼ばれていたころから映像作品の鑑賞には窮屈さが伴うものだったが、ピピロッティがその可能性を大きく広げ、楽しめるエンタテインメントに仕立て上げたひとりであることは確かだろう。

2021/04/09(金)(村田真)

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