artscapeレビュー

大西みつぐ「地形録東京・崖」

2021年06月01日号

会期:2021/04/01~2021/04/25

コミュニケーションギャラリーふげん社[東京都]

以前、中沢新一の『アースダイバー』(講談社、2005年)を読んだ後に東京の街を歩いていて、ものの見方が変わったと感じたことがあった。『アーズダイバー』には、縄文時代の東京はほとんどが海だったという記述がある。高台は岬があった場所で、そこには神が祀られ、いまはそれが寺社になっている。坂を上り下りしていると、海から地上に出たり、逆に地上から海の底に降りていったりする気分がするのだ。

大西みつぐが、新たにスタートした「地形録東京」で試みようとしているのも、『アースダイバー』と同様に、東京を地形/地勢から読み解くことである。今回は京浜東北線に沿った上野→赤羽、そして大森→大井町→品川という二つの線上にある「崖」にカメラを向けている。そういう目であらためて見直すと、普段何気なく見ていた風景の意味が変わってくるように感じる。同時に、山の手と下町という生活・文化の環境の違いが、地形/地勢によって大きく影響されていることも浮かび上がってくる。

あたかも「測量士」のような作業の集積だが、大西は「特にコンセプチュアルな写真として組み立てるつもりはありません」と展覧会に寄せたコメントに記している。たしかにあまり方法論を固めすぎると、彼がこれまで続けてきた気ままなスナップ写真のあり方からは逸脱してしまう。むしろ、その日の風まかせで移動しながら、「身体的経験を通して」被写体を探すようなやり方の方が、より実り豊かなものになるのではないだろうか。まだ始まったばかりだが、この「地形録東京」には、次に何が出てくるかが予測できない大きな可能性を感じる。

2021/04/10(土)(飯沢耕太郎)

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