2021年09月15日号
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artscapeレビュー

石内都展 見える見えない、写真のゆくえ

2021年06月01日号

会期:2021/04/03~2021/07/25

西宮市大谷記念美術館[兵庫県]

石内都が関西地域の美術館で展覧会を開催するのは初めてだそうだが、とても充実した内容の展示になった。石内は2017年に、長年住み慣れた横須賀から群馬県桐生に移転した。そのことで、あらためてこれまでの自分の作品を見直し、新たなスタートラインを引き直そうと考えたのではないだろうか。作品の選定や配置にも、そんな思いがよく表われていた。

展示室Iには「ひろしま」と「Frida by Ishiuchi」「Frida Love and Pain」が、展示室IIには「連夜の街」「絹の夢」が、展示室IIIには「INNOCENCE」「Scars」「sa・bo・ten」「Naked Rose」の連作が並ぶ。 これらは旧作だが、スライド上映を試みたり(「連夜の街」)、シリーズごとに壁の色を変えたりするなどインスタレーションに工夫を凝らしていた。また「Naked Rose」のパートでは、2006年に制作されたという、カメラをゆっくりと移動させながら、バラの花弁をクローズアップで撮影した映像作品も出品されていた。

展示室IVには近作、新作が並ぶ。「One Day」「Yokohama Days」は、日常の情景をカラー写真でスナップ撮影したシリーズ、「Moving Away」は引越しをきっかけに、横須賀の自宅とその近辺、さらに自分の手足を「セルフ・ポートレート 」として撮影した写真群である。衝撃を受けたのは「The Drowned」で、2019年の台風19号で大きな被害を受け、収蔵庫が水没した川崎市市民ミュージアムで、自分の作品にカメラを向けている。急遽、展示が決まったそうだが、泥にまみれ、損傷し、異臭を発するプリントに向ける視線のあり方が、「ひろしま」や「Scars」とまったく変わらず、その触感を丁寧に画像に移し替えようとしていることに、逆に胸を突かれた。

展示室IVの作品には、石内が新たな表現の世界へとさらに踏み出していこうとしている強い意欲を感じる。むしろ新作だけで構成された展覧会を見てみたい。

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2021/04/16(金)(飯沢耕太郎)

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