artscapeレビュー

岸幸太「連荘 1」

2021年09月01日号

会期:2021/07/26~2021/08/08

photographers’ gallery[東京都]

興味深いことに、岸幸太の個展「連荘 1」に出品されたのもカラー写真だった。岸も渡辺兼人と同様に、これまで多くの作品を黒白写真で発表してきた。15年あまり撮り続けた大阪・釜ヶ崎、東京・山谷、横浜・寿町などの「ドヤ街」の写真を集成して3月に刊行した写真集『傷、見た目』(写真公園林)も、全ページがモノクロームの図版である。

今回の個展からスタートする「連荘」シリーズも、撮影場所、被写体の選択、撮り方はそのまま踏襲されている。「ドヤ街」の街路や建物、路上にちらばり、積み上げられているゴミと現代美術のオブジェの中間形態のような事物、その間を浮遊するように行き来し、所在なげにたたずむ人物たち……。それらをストレートに切り出してくる眼差しのあり方は、黒白写真でもカラー写真でも変わりはない。だが、これまた渡辺兼人の写真と同じく、それらを包み込む空気感が、丸ごと写り込んでいることに大きな違いがある。そのことによって、写真家と被写体の間の距離感がより縮まり、観客(読者)は、岸とともに「ドヤ街」のなかに踏み込んでいくような臨場感を共有することができるようになった。このシリーズも、写真集『傷、見た目』のようにまとまるには時間がかかりそうだが、新たな視覚的体験が期待できそうだ。

これまで黒白写真を中心に発表していた写真家が、カラー写真に移行することが多くなってきた理由のひとつとして、カラープリント、特にデジタル処理によるカラープリントの精度が、以前と比較して飛躍的に上がってきたということも大きいのではないだろうか。モノクロームプリント並みの画像コントロールが可能になることで、その表現の可能性はより高まりつつある。なお、展覧会に合わせて、KULAから同名の写真集も刊行されている。

2021/07/29(木)(飯沢耕太郎)

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