2021年09月15日号
次回10月1日更新予定

artscapeレビュー

ロロ『とぶ』

2021年09月01日号

会期:2021/06/26~2021/07/04

吉祥寺シアター[東京都]

「いつ高」シリーズのラストを飾るvol.10『とぶ』はなにもない空間からはじまる。上演前の10分間を使った舞台美術の仕込みも全国高等学校演劇コンクールの出場ルールに則ってつくられた「いつ高」シリーズの特徴のひとつだが、vol.9と2本立て上演されたvol.10の上演前の時間に仕込みは行なわれず、やがてそのなにもない空間が体育館のステージらしいことがわかってくる。客席側に広がっていると思しき運動エリアではバスケ部が練習をしているようだ。群青(板橋駿谷)がそれを眺めていると、そこに将門(亀島一徳)が机を運んでくる。それはどうやら映画の撮影の準備で、少しずつ運ばれてくる机によって舞台は教室へと姿を変えていく。「いつ高」という架空の高校を舞台にした青春群像劇連作演劇シリーズのおしまいは、演劇のはじまりをなぞるようにしてはじまる。


[撮影:伊原正美]


机を運んできた将門も一緒になってバスケ部の練習を眺めていると、二人の友人のシューマイがフリースローを決める。のみならず、将門が思いもしないほど飛んだりもしているらしい。それを見て「あんな飛ぶ人だっておもわなかった」と言う将門は「勝手に飛ばない人だって決めつけてた自分がすごい、やだ」とちょっと落ち込んでしまう。『とぶ』はそんな誰かの想像の外を象徴するようなタイトルで、群青が初めて舞台に登場し将門やシューマイらと過ごす時間を描いたvol.4『いつだって窓際でぼくたち』でも実はすでにキーワード(?)になっていた。シューマイの姿は舞台上にないが、将門が想像もしなかったその姿を観客はたしかに想像することになるだろう。

なりゆきから撮影の準備を手伝っていた群青は、将門からこのあと太郎(篠崎大悟)が来ると聞いて動揺してしまう。実は群青と太郎は中学時代、同じ「サイキック運動部」の部員同士だったのだ。いまもサイキック運動部に唯一の部員として所属する群青とは異なり、かつてのエースだった太郎は今はもうサイキック運動はやっておらず、一方的に気まずさを感じている群青は逃げるように去っていく。


[撮影:伊原正美]


やってきた太郎と将門は撮影に備えてセリフ合わせをはじめるもののなかなかしっくり来ない。「二人でおんなじ景色、想像できたらいいのかな」という将門の言葉をきっかけに、脚本に書かれた人物たちのことを想像しはじめる二人。しかしまだあと一歩、というところに不意に戻ってきた群青は「それでもサイキック運動部の元エース、テレパスの太郎かよ!」と太郎を挑発し、「ちょっと、みてろ」とサイキック運動をしはじめる。サイキック運動とは「存在しないものを念の力で具現化させて闘う競技」、らしい。やがてサイキック運動は太郎、将門を巻き込み、三人のあいだで想像の共有が果たされるのだった。


[撮影:伊原正美]


ところで、vol.1『いつだって窓際であたしたち』では将門が太郎にはじめて声をかける瞬間が(舞台の外/観客の想像のなかで)描かれていたのだが、太郎に好意を寄せる将門にとっては嬉しく驚くべきことに、太郎はそれ以前から将門のことを認識していたらしい。それどころか、太郎も将門自身も知らなかった、運命的と言ってもよいつながりが二人のあいだにはあった。

話は中学時代に遡る。生徒たちの希望によって給食のメニューが決まるリクエスト給食の日、大人しくて声の小さい国語教師の通称「淳二先生」は校庭で「回鍋肉」と書かれたアドバルーンを打ち上げていた。その出来事は将門に強い印象を残し、教師を目指すきっかけにさえなったのだが、強い風に一瞬で飛ばされてしまったアドバルーンを目撃したのは将門しかいなかったと思われた。だが同じ日、太郎の中学では卒業アルバムの集合写真の撮影が行なわれており、そこにはなんとアドバルーンの姿がしっかり映り込んでいた。しかも、アドバルーンの「回鍋肉」の文字に刺激された二人はその夜、同じバーミヤンで回鍋肉を食べていた── 。

くだらないと言えばくだらないエピソードだが、想像を共有するまでもなく、すでに太郎と世界を共有していたのだという事実は将門にとって運命以外のなにものでもないだろう。見える範囲、知れる範囲、想像の及ぶ範囲は限られているが、世界はその外側にも広がっている。見えなくとも、知ることができなくとも、想像できなくとも世界はつながっている。だから、そのことさえ忘れなければ世界はあらかじめ共有されているのだ。演劇は、人の集う劇場は、そのことを繰り返し思い出させてくれる。


[撮影:伊原正美]


「いつ高」シリーズはこれでひと区切りとなるが、作・演出の三浦直之は高校演劇の枠組みに縛られない番外編の制作を予告している。また、この10月には東京芸術祭の一環として『フランケンシュタイン』を翻案したロロの新作公演『Every Body feat. フランケンシュタイン』も控えている。オンライン配信もあるとのことなので劇場公演と合わせて楽しみに待ちたい。


いつ高:http://lolowebsite.sub.jp/ITUKOU/
ロロ:http://loloweb.jp/


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2021/06/26(土)(山﨑健太)

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