2021年09月15日号
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artscapeレビュー

コウノジュンイチ写真展「遠ざかる風景」

2021年09月01日号

会期:2021/08/09~2021/08/22

ギャラリー蒼穹舎[東京都]

コウノジュンイチがギャラリー蒼穹舎で発表し続けている写真の世界は、このところほとんど変わりがない。2015年に写真集『ある日』(蒼穹舎)を刊行してからも、一定の撮り方、見せ方にこだわり続けている。8月9日~15日、16日~22日の2部構成で展示された本展でも、旅の途上と思しき光景を、やや距離を置いて撮影し、赤錆のような色調に焼き付けたプリントが並んでいた。道を行く人、路傍の猫、寂れたたばこ屋、公園のベンチの後ろ姿の人物、金魚のクローズアップなど、既視感を感じさせる眺めを丁寧に拾い集めている。まさに「遠ざかる風景」というタイトルそのものの写真群である。

見方によっては、変わりばえのしない、後ろ向きの写真の集積といえるが、展示を見ているうちに、その私小説的な味わいが、じわじわと心に食い込んでくるように感じた。ここから何かが生まれてくるかといえば、あまり期待はできないだろう。だが、その赤錆色の眺めは、意外に長く記憶に残っていきそうな気がする。これもまた、日本の写真家たちが長年にわたって積み重ねてきた、日記や随筆のような写真行為、写真表現のあり方のひとつの到達点といえるかもしれない。そう考えると、コウノの写真のたたずまいは、日記的な文章と相性がよさそうにも思える。写真とテキストを組み合わせた展示も考えられるのではないだろうか。

2021/08/16(月)(飯沢耕太郎)

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