artscapeレビュー
写真史家・金子隆一の軌跡
2022年07月15日号
会期:2022/06/28~2022/07/31
MEM[東京都]
昨年逝去した金子隆一(1948~2021年)の1周忌を迎え、彼の2万点以上といわれる蔵書を引き継ぐことになった東京・恵比寿のMEMで記念展が開催された。日蓮宗の僧侶を本業としながら、その立ち上げの時期から東京都写真美術館の専門調査員を務め、キュレーター、写真史家として多大な貢献をした彼の業績を、あらためて振り返ろうという企画である。1967年に立正大学に入学し、写真部に入部して全日本学生写真連盟の活動に参加した時期から、フォト・ギャラリー プリズム(1976~78年)の運営、『camera works tokyo』(1979~1984年)の刊行などの活動を経て、日本の写真を出版、講演、展覧会企画などを通じて支えていくようになる金子の軌跡が、豊富な資料で多面的に紹介されている。金子自身による学生時代のオリジナル・プリント、島尾伸三撮影の若き日のポートレート、潮田登久子撮影の金子の蔵書の書架を撮影した写真なども出品されており、感慨深い内容の展示だった。
写真集の収集と書誌研究を軸とした彼の仕事は、むろんこれまでもいくつかの書籍の形で上梓されているのだが、こうしてその全体像を概観すると、まだ多くの可能性をもつものであることがよくわかる。幸い、蔵書の整理やリスト化の作業も進行中ということなので、今後その成果が少しずつ形になっていくことを期待したい。彼がさまざまな媒体に発表した文章も、書籍としてまとめる必要があるだろう。展覧会に合わせて、カタログを兼ねた同名の冊子(発行・エムイーエム、2022)が出版されている。関係者による追悼の文章、金子の講演「写真の歴史 一九六〇~一九七〇年と世界の写真の潮流」(2017年)の採録、詳細な年譜などを含む、160ページの充実した内容の写真・文集である。
2022/06/29(水)(飯沢耕太郎)