2022年10月01日号
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artscapeレビュー

題名のない展覧会─栃木県立美術館 50年のキセキ

2022年07月15日号

会期:2022/04/16~2022/06/26

栃木県立美術館[栃木]

学生のとき以来だから、宇都宮の《栃木県立美術館》を訪問したのは20年以上ぶりになる。確か、初めてこの建築の存在を知ったのは、世田谷美術館の「日本の美術館建築」展(1987)で紹介されていたときである。《栃木県立美術館》は、大阪万博の《万国博美術館》(旧国立国際美術館、1970)も手がけた川崎清が設計し、1972年に開館したから、日本において早い時期に登場した県立美術館だろう。樹木を象徴的に残し、それを映しだすハーフミラーの外観が特徴である。塔状のヴォリュームでありながら、存在感を消すようなデザインは、近年の建築の動向と共振するだろう。意外に古びれていない。もっとも、段状の広場を囲むガラス面は、作品への日射の影響から後に不透明になり、当初の外部と内部が連続するような空間ではなくなっていた。またセキュリティのためとはいえ、屋外彫刻を展示する広場が、隣接する公園に対し、閉ざしているのももったいない。ここはアクティビティをもたらす、効果的な場として活用できるはずだ。ちなみに、直交座標系で完結させず、壁の角度を振った内部の空間体験は今も楽しい。



栃木県立美術館


研究員の案内で、常設展示のエリアも含む(1981年にオープン)、全館をフルに用いた50周年記念の「題名のない展覧会─栃木県立美術館50年のキセキ」をじっくりと鑑賞した。プロローグとしてコレクション無しの状態から発足した美術館誕生の経緯(模型や図面、建築雑誌において紹介されたページなど)、基金を活用した購入作品(コロー、モネ、ターナーなど)、調査研究をもとに企画した展覧会群、美術館が所有する名品、女性アーティストへのフォーカス(福島秀子ら)、西洋の挿絵本、「美術館と同級生」として1972年に制作された作品、21世紀の栃木の現代美術、栃木の建築や風景を表現した作品群など、さまざまな角度のテーマが続く。全展覧会のポスターを年譜として並べたり、カタログや鑑賞ガイドなど、「印刷物でたどる美術館のあゆみ」も興味深い。なお、いくつかの企画展については、ポスターの撮影者やデザイナーも明記し、さらに担当した研究員のコメントも交え、活動を振り返る。そもそも美術館とはどういう場であるのか、また展覧会を実現する背景をていねいに教える内容だった。なお、建築のここを見て、といったキャプションも館内に用意され、建築も作品として再発見してもらう試みも良かった。



「題名のたくさんある展覧会」セクション




模型




石井幹子の《シャンデリア》(1972)




奥に全ポスターによる年譜




ポスターの展示にもキャプション




壁の素材を説明する


2022/06/04(土)(五十嵐太郎)

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