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河瀬直美『東京2020オリンピック SIDE:A/SIDE:B』

2022年07月15日号

河瀬直美監督による東京オリンピック2020の公式映画『東京2020オリンピック SIDE:A』と『SIDE:B』の両方を鑑賞した。その際、筆者にとっては初めての体験が2つあった。ひとつは、『SIDE:A』では仙台駅前のシネコンに出かけたが、134席のシアターを一人で独占したこと(過去にあるホラー映画で危うくそうなりかけたが、開演直前に一組のカップルが入り、回避した)。映画も「無観客」と揶揄されていたが、確かに噂通りに少ない。スポーツ好きの層とドキュメンタリー映画を見る層が重ならないことも一因だろう。また1936年のベルリンオリンピックを記録したレニ・リーフェンシュタールの作品『オリンピア』と違い、一流のアストリートの躍動感やスペクタクル性はない。当初、国策映画になるのではと心配されていたが、河瀬の『SIDE:A』は、国威発揚や勝敗の結果を示す場面はスルーし、グローバル基準のジェンダー、難民、BLMなどを軸に、人間として各国の選手を描く。特に子育てをめぐって、海外と日本の女性選手が異なる状況だったことは印象深い。彼女の作家性が発揮されており、良い意味で予想を裏切った。もっとも、本来ならば、限られたミニシアターで公開する作品が、間違って全国で展開するシネコンのスクリーンに来ちゃったような居心地の悪さも感じた。

さて、『SIDE:B』の方は、正しくシネコンの55席のシアターで鑑賞し、約10名の客がいた。個人的に初めてだったのは、公開初日の午前というタイミングである。やはり、日本で夏のオリンピックが開催され、その公式映画を見られることは、もうしばらくはないことを考えると、チェックすべき作品だろう。実際、好き嫌いは別にして、批評をしたくなる映画であることは事実だ。もっとも、強い作家性ゆえに、思ったよりも良かった『SIDE:A』に対し、『SIDE:B』は逆に作用し、中途半端で未整理のドキュメントになってしまった。オリンピックを裏で支えた人たちに焦点をあてるという触れ込みだったが、内容はいわばドメスティック編で、日本で何が起きていたかを振り返るものである。ただし、あまりに高速で膨大な情報を流しているため、個別には深掘りされることはなく、一連の事件や問題はいくつか触れてはいるものの、密着ならではの新情報はあまりない。画面に映る時間の長さを考えると、主要な登場人物となった森喜朗元首相やIOCのバッハ会長、あるいは電通やCMディレクターの佐々木宏に対し、批判的に解釈できるシーンはあるが、社会派のドキュメンタリーのようなツッコミはない。なお、映画のパンフレットによれば、公式映画のチームであっても、開催期間中の選手、選手村、食堂などへの取材やインタビューに大きな制限がかけられていたことは意外だった。河瀬の興味は、100年後の観客だという。それゆえ、オリンピックにおける平和の理念を確認したり、未来の子どものほんわかな雰囲気のシーンを挿入していたが、結局、監督の個人的な感情によって、オリンピックが抱えていたさまざまな問題を覆い隠し、美化している。また自分の映画のなかで、あらかじめ未来の子どもがオリンピックを語る場面を入れてしまうのは、演出として稚拙ではないか。



公式サイト:https://tokyo2020-officialfilm.jp/

2022/06/06(月)、2022/06/24(金)(五十嵐太郎)

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