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地球がまわる音を聴く:パンデミック以降のウェルビーイング

2022年07月15日号

会期:2022/06/29~2022/11/06

森美術館[東京都]

Listen to the Sound of the Earth Turning.

これは1964年にオノ・ヨーコが書き下ろし出版した本『グレープフルーツ』の一節である。本展テーマは、この一節を発端に組み立てられたという。「パンデミック以降のウェルビーイング」とは、いま、誰もがもっとも関心のあるテーマのひとつではないか。世界的なパンデミックを経て、我々はこれからの生き方や地球のあり方について立ち止まって考えざるを得ない時が来た。そんな折に、50年以上前に書かれた彼女の言葉が改めて響いてこようとは……。

オノ・ヨーコはジョン・レノンとの結婚前、前衛芸術運動のフルクサスに参加していたアーティストとして知られるが、その後もことに言葉を用いたアートに長けていたように思う。ヨーコの作品に初めて出合った際に、ジョンが心に深く残ったという《天井の絵》では「YES」の文字を記しており、ジョンと一緒に発表した楽曲「Happy Xmas」では「WAR IS OVER “IF YOU WANT IT”」という反戦メッセージを歌い上げた。言葉はシンプルで強く、人々の心に真っ直ぐ届きやすい。「地球がまわる音を聴く」とは実に壮大で、神の領域に当たる行為ではあるけれど、頭の中で想像するだけで、この地球上で自分がいかにちっぽけな存在であるかを同時に思い知らされる。


展示風景 ヴォルフガング・ライプ《ヘーゼルナッツの花粉》(2015-18)森美術館


本展ではそうした「五感を研ぎ澄まし、想像力を働かせる」16人のアーティストによる作品が集結した。オノ・ヨーコの『グレープフルーツ』からの抜粋作品の次に登場するのが、ヴォルフガング・ライプの作品だ。展示空間に入ると、辺り一面に甘い香りが漂う。それが《ヘーゼルナッツの花粉》から放たれていることに、キャプションを見て気づく。さらに奥には牛乳や蜜蝋を固めた作品が展示されているのだが、造形がミニマムゆえに、その予想もしない香りにハッとさせられる。いずれも人々にとっては食を連想させる香りだが、生物にとっては生命をつなぐための大事な要素だ。我々はそのエッセンスをいただいて生きている。五感のなかでも嗅覚を刺激されたことで、そうした生物の循環に思いを巡らせざるを得なかった。果たして、本展がパンデミック後の世界を生きる我々のよすがとなるか……。


公式サイト:https://www.mori.art.museum/

2022/06/28(火)(杉江あこ)

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