artscapeレビュー
蜷川実花「瞬く光の庭」
2022年07月15日号
会期:2022/06/25~2022/09/04
東京都庭園美術館[東京都]
色の魅力をこれほど強く表現する写真家は、日本で蜷川実花をおいてほかにはいないのではないか。いまや映画監督としても活躍する彼女の世界観は本当に独特だ。同じ写真でもドキュメンタリーやスナップショットとは異なり、むしろ美しい色を表現したいがため、絵筆の代わりにカメラを使っているようにも見える。そんな彼女がコロナ禍に日本各地で撮り下ろした植物写真が、このたび、新作として発表された。会場はアール・デコ様式の建築で知られる東京都庭園美術館である。
今回、蜷川実花は光にあふれた色“光彩色”の世界に挑んだという。色を撮るという点では従来と変わりないが、確かに光をたくさん取り込んだ写真が並んでいた。光と色にあふれた画角の中で、遠くに映るひとつの赤い花だけに焦点を当てた写真、あるいはどこにも焦点を当てていない写真など、めくるめくこれらの写真を眺め続けていると、心がトリップしていく感覚に襲われる。アール・デコ様式の空間においても、彼女の写真は輝いていた。そして新館に移動すると、本館で観た写真の数々は序の口だったことを知る。そこでは映像作品《胡蝶のめぐる季節》が紹介されていたのだが、空間全体に何枚ものスクリーンを設置し、レイヤー状に映像を流す演出がなされていたため、足を踏み入れた途端に、映像の中に飲み込まれるような強烈な感覚を覚えたのである。
その隣の部屋では蜷川実花へのインタビュー映像が流れており、その合間合間に彼女が写真を撮る姿を記録した映像が挟み込まれていた。それを観ると、彼女が撮影対象としてきたのが、一見、何の変哲もない花壇や公園、観光地などに植えられた植物だったことを知る。実は展示作品には東京都庭園美術館の庭園で撮影された写真もあった。我々はこんな風景はどこにでもあり、珍しくも何ともないものとして見過ごしていることが多い。しかし彼女の目にはきっと特別な風景に映っているのだ。彼女がレンズを通して見ると、まるで魔法を掛けられたかのように、それは幻想的な世界へと変わる。そんな疑似体験を本展では味わえた。
公式サイト:https://www.mikaninagawa-flickeringlight.com
2022/06/24(金)(杉江あこ)